対談:長瀬正太 × 神辺 貴之
in CP+2019 day2-2

長時間露光で風景を撮る長瀬さんと、同じく風景を撮る神戸さん。2人に共通するのは、可変NDフィルターを愛用すること、異なるのは、数分露光する長瀬さんに対して、数秒の露光の神戸さん。2人の差異から何が見えてくるでしょうか。

長瀬正太/ 写真家
1975年生まれ、群馬県前橋市在住。デジカメ教室『Message』&写団「蒼」主宰、「日本写真協会」会員、「ヒーコ」記事執筆&セミナー講師、「デジタルカメラマガジン」「NikonD810ムック」「尼康鏡界」(Nikon中国公式Webマガジン)他記事寄稿
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神辺 貴之 / 写真家 

埼玉県在住。生まれ育った秩父を中心に、心動かす瞬間を求めて撮影している。特に、ここ数年で有名になった秩父雲海は四季を通じて写真に収め続けている。

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群馬の湿原と秩父の雲海

まずはじめに、お二人の自己紹介としてそれぞれの作品を紹介。長瀬さんは地元、群馬県にある小さな湿原「覚満淵」を撮った作品です(写真上1枚目)。

長瀬 「出島のところに木が埋まっていて、朝もやが出てくると木の裏側にも霧が入って、その奥になにかいるんじゃないかと、想像力を刺激してくれるような作品を目指しました」

秩父在住の神戸さんは、秩父で撮った雲海の写真を紹介。秩父ミューズパークから橋と雲海の写真と、工場を含む夜景と雲海写真です。

神戸 「秩父ハープ橋というハープのような形の橋がいい仕事をしてくれています。人工的な建造物の中に、山間の街が雲海に包まれている。いろいろな位置から撮れるのですけれど、この角度から撮った人は当時はまだ少なくて、SNSにアップしたら真似されるようになりました(笑)」

もう1枚は、美の山公園から撮った作品。この風景がきっかけで、秩父雲海がSNSで大ブレイクしたそうです(ブレイクしたのは神戸さんの写真ではないそうですが)。

神戸 「秩父はセメントの町です。その工場の明かりが街明かりと一緒に雲海の中に浮かび上がっている風景です」

白鳥の流し撮り-シャッタースピード1秒の世界

神戸さん自身は鳥の写真は専門ではない、と注釈をつけつつ、白鳥のいる風景が好きで、白鳥だけは撮り続けているそうです。この写真は、全て安曇野の犀川白鳥湖で撮られたものです。
シャッタースピードが1/125秒のほぼ白鳥が静止している写真から、徐々に秒数を伸ばした写真へと説明を進めていきます。

神戸 「白鳥が最も美しく見えるのは、羽ばたいているところなので、どうその羽ばたきを見せるかというのがいちばん大事なポイントです。
だから、撮りたい瞬間瞬間の状況によってシャッタースピードを変えたい。
絞りは、オートフォーカスで追随できるF8で固定しています。そうなると、NDフィルターが必要になります。スローシャッターで流した写真も撮りたいけれど、止めた写真も撮りたい。だから、今まではカメラ2台で違うフィルターをつけていました。
でも、動物を撮るのに2台は現実的ではない。そこで可変NDフィルターなんです」

こちらは1/30秒の流し撮りです。流し撮りは1/30から始めなさいといわれるくらい、流し撮りの入門的な秒数で、はじめての人でも1時間位で撮れるようになるそうです。

神戸 「周りの風景がそれなりに流れて、真ん中の白鳥にピントを合わせています。完全に静止した生々しい姿から、流れる風景の中に現れる、ちょっとファンタジックな写真になっていると思います」

 

1/20の紹介の後、一気に1/8秒へ。

神戸 「光が入った状態で撮っているので、思ったほど流れているようには見えない。
8分の1秒って、かなりむずかしい。何十枚か撮って1枚成功するくらいです。

これは白鳥が、川面で羽ばたいて、テイクオフしようとしている瞬間です。なので川面に白い羽が写っています。飛び始めた直後の10秒位しか撮影するチャンスがないんですね。
このときは、ND8の上に可変NDをつけています。そうしないと1/8までシャッタースピードを落とせません」

可変NDで明らかに撮影方法が変わったと神戸さんは言います。

神戸 「こうした撮影では、短い時間で設定が変えられるというのがすごく重要で、スポーツ撮影のようなものなんです。可変NDだと、レバーを動かすだけで自分の望んでいる露出まで瞬間的に持っていける。カメラの設定で露出を変えながら撮っていたときと比べると夢のような状態ですよ、もうこれ以上ないというくらい恩恵を受けています」

次に、本命のシャッタースピード1秒の写真です。

神戸 「要はこれを撮りたいんです。ここを目指して撮っています。ぼくはワンシーズンに2万ショットくらい撮るんですけど、3枚くらしか撮れません(笑)。

シャッタースピードが1秒になると、残像がベールのような絵になる。これだけでたまらない。こういうものは人工的に作れるものではないし、奇跡的な画ではないかと思いますね。人間の目には見えなくて、カメラのシャッタースピードによって生まれる画だと思います。

ここまでくると、自分が撮ったというよりも白鳥が撮らせてくれた恵みではないかと思っています」

想像を超えたものを写す—シャッタースピード2分の世界

長瀬 「僕が紹介するのは、ND1000、ND8に可変NDをつけた状態で、2分間露光するような写真です」

長瀬 「これは、長野県の高ボッチ高原から200mmのレンズで撮っています。霧と雲の動きによって奥行き感、情感や、世界観がでてくる。これが楽しく撮りつづけていいるんです。

フィルターは、可変NDだけを使用しています。撮影したのが夜中の1時、月が出ているので可変ND1枚で撮れます。

神戸 「構図を決めるときに、ライブビューで見えているんですか?」

長瀬 「見えないです。でもISOを25000などに上げると見えてきます。そこで構図を作り、ピントを合わせてからシャッタースピードを决めてゆくんです」

最後は、大洗海岸で撮影した、朝方の鹿島工場地帯がおぼろげに見える写真です。

長瀬 「海を挟んで向こう側に鹿島工業地帯が見える工場朝景色です。ND8と可変NDでシャッタースピードが2分になるように調整しています。
工場朝景という新しいジャンルを作りたいんですよ。でも、弱点は全然光らないところ、ぜんぜん目立ちません(笑)。
朝の青空が青くかぶって朝焼けが出てくるという色の変化をとらえながら、工場を超望遠で撮っています。蜃気楼のように、抽象的に魅せたいので、わざわざ望遠を使っている。
ジャンルとして確立されるかはどうかはみなさんが真似してくれるかどうかにかかっていますので(笑)、夜、工場を撮ったら朝まで残って工場朝景も撮ってみてください」

神戸 「幻のような煙突、煙がなびいている画というのは物語を感じますね。これは数秒ではできないことだなあと思いました」

長瀬 「でも、さっき白鳥の羽がシュッとなっている作品も、幻想的なファンタジーの世界。抽象的に想像かきたてるという意味では、動く速度が違うだけで求めるものは一緒なのかなと思いました」

神戸 「最近思っているのは、明確明瞭なものがすべてではないなと。写真を撮っているおかげだと思いますが、とかく日常でははっきり答えを求めるじゃないですか。だからこそ写真の中ではそういうものとかけはなれた、ぼやっとしているけど、何か心に響くもの、残るものがあって欲しい。それが自分の撮りたい写真なのかなと思っています」

長瀬 「目に見えたままを映すのも写真のひとつの要素ですけれど、想像を超えたものも見たいんですよね。先程の富士山の写真でも、何分かすると目には見えないものがぼやっと出てくる。出てきたときに感動するんですよ。その感動を求めて結局夜通し撮って朝になってしまうという。

ところで、神戸さんの可変NDの使い方は、スイッチのオン、オフと言う感じですね?」

神戸 「そうですね、スイッチのようにすばやく動かすことができる。それが白鳥を撮るときのスタイルを変えてくれた。全く新しい撮影スタイルをこの可変NDでできたと言えると思います」

長瀬 「私の場合は、可変NDを調整役として使っています。何枚かNDを重ねた上で、最終的な秒数を調整する調整役になることで、新しい世界観を得ることができました。

この、2つの異なるスタイルを本日みなさんにご紹介して、可変NDフィルターを使ってで体験していただきたい、というのが本日のテーマでした」