文・写真: Francesco Gola

イタリア在住の写真家、エンジニアで、長時間露光による海景を得意とし、世界中でワークショップを開催しているFrancesco Gola氏。彼の写真家/講師としての経験からピックアップした、長時間露光撮影10のテクニックをご紹介します。

私はセミナーを終えると、毎回参加者に長時間露光撮影の失敗例を書いてもらうことにしていますが、今回はそれをすべて整理して、長時間露光撮影10のテクニックとしてまとめてみました。

1: 三脚使用時は手ブレ補正をOFFに

カメラの手ブレ補正機能を使うとよりシャープな画像が得られます。カメラの震動で生じるブレを最大限に減らすので、特に低速シャッター撮影時には非常に有効です。手ブレ補正技術はセンサーでブレを感知し、レンズユニットまたはセンサー自体を動かすことでブレの分を打ち消します。

ただ、長時間露光撮影時には、カメラをしっかりした三脚に固定しているので、震動が生じる可能性は少ないでしょう。そこで手振れ補正機能をオンにしたままだと、カメラ本体が動いていなくても、手振れ補正システムがレンズユニットやセンサーを動かしてブレの補正をしようとすることがあるので、その結果逆に画像がブレたり、ぼけたりしてしまいます。

しっかりした三脚に固定したら、手ブレ補正は必ずオフにしましょう。

2: ミラーアップ機能を使う

大抵の一眼レフカメラにはミラーアップ機能があります。ミラーアップは一眼レフカメラの基本的な動作です。光はレンズを通過してカメラボディに入り、ミラーで反射してペンタプリズムに導かれ、屈折により光学ファインダーに届きます。シャッターボタンを押した瞬間にミラーが跳ね上がりますが、このミラーショックによって、カメラボディがわずかに震動するため、ブレが生じることがあるのです。

この震動を防ぐために、長時間露光撮影時にはミラーアップ機能を使います。ミラーアップは、撮影時にミラーをあらかじめ跳ね上げておくことで、ミラーの震動が長時間露光撮影に与える影響を防ぐことができ、ブレで画像がぼけるのを回避することができます。

3: GNDフィルター(グラデーションNDフィルター)を使う

明暗差がそれほど大きくなければ、1枚のNDフィルターでも、イメージ通りの写真が撮れるでしょう。しかし、明暗差が大きい撮影環境では、GNDフィルターを使って画面の明暗差をならしてやる必要があります。

「円形フィルターを使って撮影してるから明暗差の処理は編集作業でやるしかない」と思われている方がいるかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか?

角形フィルターは手持ちでレンズの前にかざしても使えます。数秒程度の露光時間なら、そのままフィルターをしっかり保持していれば大丈夫です。数分間に及ぶ露光時間の場合でも、多少手が震えても、作品は満足のいく結果になるでしょう(嘘だと思ったらぜひ試してみてください)。もちろん、フィルターホルダーを使って撮影した方が楽に撮影ができます。特にフィルターを複数枚重ねて撮影するときにはホルダーが必須です。

4: 絞り過ぎない

絞りは絞り込むほど、露光時間は長くなります。

このルールに基づけば、絞りをf/11からf/22にすることで、露光時間も30秒から2分間に伸ばせることになります。もちろん、理論上は決して間違いではありません。しかし、悪いことに、光の回折という現象が生じて、絞りをf/16より小さくすると、画像のシャープネスが大幅に下がってしまうのです。

絞りをf/11まで絞り込んでも足らず、さらに露光時間を長くとりたい場合は、ISOを下げるか、NDフィルターを使うのが良いでしょう。

5: ISOの調整を忘れずに

ISOの調整は、長時間露光の強い味方となります。しかし、絞りとフィルターワークに気を取られて、ISOに気が回らないことがよくあります。どのカメラにも一定の感度範囲があり、その範囲内ならアウトプットされる画質はほぼ同じなのです。ハイエンド機の場合は、その範囲は通常ISO50から200の間です。

これで2EV分の補正ができることになります。つまりISO感度を下げることで、露光時間を1分から4分へと伸ばせるわけです。

6: フィールド撮影は思わぬトラブルに

快適なスタジオでの撮影なら、フィールドのような思わぬ環境変化に慌てさせられることはまずないでしょうし、外部要因が作品の画質に影響することもないでしょう。しかし、波の砕け散る岩場の上で撮影をしていたとしたら、レンズやフィルターを濡らさずに撮影するのは困難でしょう。

フィールド撮影時には、カメラバッグにクロスやブロワーを必ず用意しておきましょう。フィルターについた水滴は、わずか1滴でも、屈折を起こして写真を台無しにしてしまいます。大自然の力は侮れません。出発の時は晴れて穏やかな天気でも、現場についたら突風や通り雨がやってくるときも珍しくありません。様々な事態を想定して、しっかりと準備を怠らないようにしておきましょう。

7: フィルターは高品質のものを選ぶ

レンズの前にフィルターを付けると、光学系に影響を及ぼすことは避けられません。高品質のフィルターは高いかもしれませんが、でも二千円程度のフィルターをレンズの前に付けてはせっかくのレンズが台無しです。

なぜ品質にこだわるのか。重ねれば重ねるほど画質が良くなるフィルターというのは存在しません。高品質のフィルターが必要になるのは、意図する効果を得るためフィルターを複数重ねる必要があるからです。NDとGNDの全ラインナップをそろえる必要はありません。よく使う濃度のものを数枚選び、あとはISOと絞りの調整で不足を補えばいいのです。フィルターは数でなく品質重視で選びましょう。

8: しっかりした三脚で撮影を

長時間露光撮影は、時には露光が数分間に及ぶため、撮影環境の変化の影響を受けやすくなります。風が吹いてカメラがわずかにでも揺れれば、せっかくの撮影が台無しになってしまいます。足の太い丈夫な三脚を用意し、しっかりと地面に固定しましょう。必要があれば、更に三脚におもりを追加して、安定性を高めましょう。

三脚のセンターポール(エレベーター)は使わないようにしましょう。繰り上げたセンターポールは、三脚の安定性を損なうからです。

9: ファインダーを覆う

数分以上の長時間露光撮影した画像をプレビューすると、画像にフレアやハレーションが見られることがあります。その理由は、撮影時にどうしてもレンズ以外の場所から光が迷い込むことがあるからなのです。

なかでもいちばん多いのは光学ファインダーからの光漏れです。光がファインダーから入り込むのを防ぐために、ピントを合わせたらここを覆ってしまいましょう。もしファインダーにキャップがなければ、黒いテープなどを貼り光が侵入できないようにしましょう。もちろん、ミラーレスカメラの場合はその必要ありません。

フィルターホルダーを使っている場合、NDフィルターとホルダーの隙間からの光漏れがよくある原因です。NiSiの角型NDフィルターに遮光用ガスケットを貼っており、フィルターとホルダーを完全に密着させていますので、正しく装着することで光漏れを防ぐことができます。

10: NDフィルターの露光時間計算

カメラをマニュアル(M)モード、または絞り優先モード(A / AV)に設定します。次に絞りを適切な値に(風景撮影ならf / 8とf / 11の間が最適)セットし、まずはテストショットをしましょう。ここで適正露出が得られれば完了です。

露出が正確かどうかの判断は、ヒストグラムを参考にするのが良いでしょう。ヒストグラムは左端が最暗部、右端が最明部です。ヒストグラムが両端の間に綺麗に収まっていれば適正露出です。この時シャッタースピードを必ずメモしておきます。

次に、露光時間を延ばすためNDフィルターを追加しますが、フィルターによる減光分を補正する必要があります。露光時間はどう計算すればいいのでしょうか?

こんな時はNiSiの長時間露光計算アプリが役に立ちます。フィルター装着前のシャッタースピードの値と、装着するNDフィルターの濃度を入力するだけで、最適なシャッタースピードを計算してくれるからです。

露光時間を便利に計算 : NiSi Filters Australia Exposure Calculator

長時間露光撮影する際の、露光時間をかんたんに計算できるアプリです。撮影時のノーマルなシャッタースピードと露光時間を入力して、使用するNDフィルターの濃度を設定すると、露光時間を計算してくれます。

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Francesco Gola

NiSi Filters、DXO、F-Stop Gear、X-Rite アンバサダー。イタリア在住の写真家、エンジニア。長秒露光による海景を得意とし、世界を旅しながら海景を撮影。美しい階調と幻想的なイメージが高く評価され、AppleやPatagoniaといったブランドの広告に採用された実績がある。ヨーロッパを中心にワークショップも開催。

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