NDフィルターを用いたクリエイティブフォトのつくり方 vol.1
文・写真:山本高裕
東京を捉えた風景写真により、世界中のSNSユーザーから圧倒的な支持を受け、近年は独特のNDフィルター使いによる海や橋梁などの風景写真を発表している山本高裕さん。本ウェブマガジンのインタビュー記事「肉眼で捉えられないタイムラインを撮る」にも登場いただきました。編集者でもある山本さんに、NDフィルターの基礎から、山本さんならではの使い方まで、3回に渡ってレクチャーしていただきます。
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/07/image1.jpg)
NDフィルターを用いたクリエイティブフォトのつくり方 INDEX
NDフィルターを使う撮影に必要なものは何?
まず、ここから説明しないといけない方もいるでしょう。もう知っているよ!という方はこのチャプターを飛ばして、次から読み始めていただければと思います。
第一に必要なものはカメラです。とはいえ、これは当たり前すぎるので、先に進みます(個人的におすすめのカメラはありますが、それは次回の記事に譲ります)。
次に必要なものは三脚です。あえて手持ちで使う方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、多くの方はNDフィルターを風景写真に使うでしょう。したがって、しっかりとカメラを支えることができる三脚が必要となります。特に長秒の露光をしてみたい方は、トラベル三脚のような軽量のものではなく、少々の風ではびくともしない重いものがよいと思います。
そして、NDフィルターが必要です。選び方は後述しますが、レンズ先端にねじ込める円形のタイプと、レンズフードに装着するホルダーに挿入して使う角型のタイプがあります(NiSiからは、ねじ込みタイプの角型フィルター用アダプターも発売されています)。
さらに後者の角型フィルターを使う場合には、フード径や形状が異なるレンズごとに専用のアダプターを準備しなければいけません(気がつけば私は5種類のアダプターを所有しています)。
NDフィルターを使う撮影に必要なものをまとめます。
- (当たり前だけれども)カメラ
- しっかりした三脚
- NDフィルター
- NDフィルターホルダー(角型フィルターを使う場合)
そのほかにも機材を揃えるための資金、機材を運搬する手段などなど、必要なものはいろいろありますが、キリがないのでこのくらいにしておきます。
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/07/setup.jpg)
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDというフード固定型のレンズに専用アダプターとフィルターを装着。
NDフィルターの魅力とは?
NDフィルターの特徴はなにかといえば、レンズの前に黒いガラスを重ねることで、カメラの中に取り込む光量が調節できることです。
たとえば、上半分が黒いGNDフィルターであれば、夕方や朝方の光が差す空と、まだ明かりが十分に届かない前景となる山並みや草原など(海原でもいい)の風景との明暗差を均一にならすことができます。
全面が黒い普通のNDフィルターであれば、取り込む光量を減らすことができ、今のカメラの性能では難しい日中の長秒露光が可能となります。
長時間露光をすると、例えば海の風景であれば、30秒、1分、2分と水面の動きを1枚の写真の中に閉じ込めることができます。この、肉眼には見えない風景を見られることが、僕にとってのNDフィルターの魅力の一つなのです。
ND 1000+ND 8、24mm、f/9、SS 65秒
肉眼では見えない風景を見られることが、NDフィルターを使う楽しみの一つ。(撮影場所:東京都港区)
NDフィルターの種類はたくさん。何を使えばいい?
NiSiの角型フィルターを例に取ってみると、前述したものを含めて大枠で次の3種類があります。
表現したい内容により、これらのフィルターを使い分け、または重ね合わせて使います。
1と2には減光できる度合いの大小(黒い部分の濃度の濃淡)が異なるものが数種類あります。たとえば、私が普段、作品作りに使用しているのは、1のND 8、ND 64、ND 1000の3種類。2に関しては黒い部分と透明部分の切り替わりがゆるやかなソフトGND 8。これと3のPLフィルターです。
長秒露光をとりあえず味わってみたいなら、まずはND 1000があるといいと思います。これに加えてND 8があれば、コントロールできる時間の幅が広がります。
あとは空と地上(または水上)の明暗差が激しいときに、仕上がりに必要な露光時間を稼ぐためのGND 8があると、ほとんどの場面に対応できるのではないでしょうか。
ND8
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/07/nd8.jpg)
ND64
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/07/nd64.jpg)
ND1000
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/07/nd1000.jpg)
ND 8、64、1000越しに太陽を見たところ。光の透過率は肉眼でこの程度異なる。
絞りとシャッタースピード、感度設定とNDフィルターの関係
NDフィルターを使うためには、絞りやシャッタースピード、感度設定とNDフィルターの濃度の関係を知らなければなりません。
たとえば、ND 1000の「1000」とは露光時間が1000倍になるという意味です。絞りの段数で言えば10段分減光されます。ND 8であれば露光時間は8倍で、3段減光されます。
日中の光で、普通に撮影しようとすると1/100秒のシャッタースピードだったとしましょう。この場合、ND 1000のフィルターを用いると露光時間が1000倍になるわけですから、10秒の露光ができる計算になります。
さらにこれにND 8を重ねると、露光時間はさらに8倍伸びますから、80秒間シャッターを開けられるようになります。
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ND 1000+ND 8+PL、ISO 64、70 mm 、f/8、SS 60秒(撮影場所:千葉県袖ケ浦市)
もうひとつ、「段」についても説明しておきましょう。
シャッタースピードとISO(感度)については、「段」は簡単に理解できます。1/100秒のシャッタースピードを1段上げる(カメラに取り込む光量を半分にする)と1/200秒、1段下げる(カメラに取り込む光量を倍にする)と1/50秒になります。つまり上げると2倍、下げると1/2になります。ISOの場合、1段上げる(基準がISO 100なら200)と光量は倍、1段下げる(ISO 50)と半分になります。
絞りについてはやや複雑で、だいたい1の倍数と、1.4の倍数の組み合わさっています(正確には√2倍、つまり約1.4倍ずつ大きくなるそうです)。単焦点の明るいレンズの多くはf/1.4から始まります。
このf/1.4を起点に考えると、f/1.4、f/2、f/2.8、f/4、f/5.6、f/8、f/11、f/16、f/22という具合に、1段ずつ絞りが大きく、つまり光を取り込む量が少なくなります。
先にND 8は3段分減光と書きました。これはつまり、f/8くらいで撮りたい風景があるとしたら、それにND 8の減光フィルターを使えば、f/22まで絞ったときと同程度にまで、カメラ内に取り込む光の量を抑えることができるということになります。
なかなかややこしい話になってしまいましたが、そんな計算はしたくないという方のために、NiSiから便利なスマートフォン・アプリが無償配布されています。
フィルターを使わずに撮ったときのシャッタースピードに対して、どのNDフィルターを使うと何秒の露光時間になるかを簡単に求められるアプリです。また、時間を割り出したあとは、そのままタイマーとして使うこともできるので、タイマー機能が付いている高価なレリーズは持っていない!という方にもおすすめです。
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ND 1000、ISO 64、24 mm、f/9、SS 84秒(撮影場所:神奈川県横須賀市)
次回は、どんなシチュエーションでどのNDフィルターを使うか、といった話をさせていただこうと考えています。
山本高裕 Takahiro Yamamoto
東京生まれ。出版社の編集者と写真の仕事を並行してこなしている。2018年、電子写真雑誌「Tokyo Photography Magazine」を自主発行。写真愛好家グループ「東京夜間写真部」主宰。Tokyo Photo Inspilations Facebook Google Plus
> 詳しいプロフィール
![](https://photographer-dev.nisifilters.jp/wp-content/uploads/2018/06/profile_yamamoto.jpg)