クローズアップレンズで広がる写真表現 vol.2
文・写真:長瀬 正太

VOL.2は、少しイレギュラーな使い方のご紹介です。本製品「クローズアップレンズNCキット」は「シャープさを保つために絞り値はF8 – F16を推奨」となっていますが、長瀬さんがテストを通じて、ある条件下で独特のボケが生じることを発見。長瀬さんの世界観と共鳴し「ほんわか霞ボケ」と命名されました。F4以下、撮影距離などの限定された条件ではありますが、独特のボケをご覧ください。

残香 NIKON D800E, f/2.8, 1/2000秒, ISO100, +2.33補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット
(この画像は撮影後に一切レタッチをしておりません。)

ほんわか霞ボケとは

今回ご紹介しますのは、前回の記事で使用した「クローズアップレンズ NC キット」+「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」で見つけた、まったく新しいボケ感「ほんわか霞ボケ」になります。
まず、ほんわか霞ボケとは「ある条件を揃えた時に撮影画像のピント位置付近に現れるなんとも言えない柔らかくにじんだような優しいボケ感」のことです。
いくつものマクロレンズを使用している私も今回のテスト撮影で初めて体験しましたが、この霞ボケの素敵さは言葉ではちょっとお伝えしづらいので写真で語るしかありません。

韮の花による霞ボケ NIKON D800E, f/2.8, 1/50秒, ISO100, +2補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット (この画像は撮影後に一切レタッチをしておりません。)

どうでしょうか、このほんわか感!
一瞬、私も自分の目がピントを合わせるのに夢中になりすぎておかしくなっちゃったのかと思ったほどです。
ファインダーの中を覗いた瞬間こんなほんわか世界が広がっているなんて知ったら、家の庭を韮だらけにしちゃいますよね(マテ

ある条件とは

では早速、この霞ボケを捉えるための「ある条件」を解説いたしますと…

  1. NiSi クローズアップレンズNCキット
  2. 200mm以上の超望遠焦点域
  3. 最短撮影距離付近(約22cm)
  4. 絞り値開放(そのレンズの最小F値)※F4以下を推奨
  5. 少し膨らみのある被写体の中心付近のピント位置

の5つになります。
この条件を揃えるとかなり被写界深度(ピントが合っているように見える範囲)が浅くなるのでちょこっと撮影難易度は高いのですが、私は息を止めて「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦」で撮りまくっております。

霞ボケを生かすコツ

ただし、上記した霞ボケの条件を満たすためには一つ制約が出てきます。
それは前回の記事でもお伝えした「被写体との距離感」であり、クローズアップレンズの推奨望遠焦点域(200~300mm)ギリギリなので「ズームさせて被写体の大きさや空間の広さを調節する」という事がほとんど出来なくなるという点です。
ですので、例えば先ほどの韮の花で「少し広めに撮影して背景の韮の花ボケを演出として使って撮りたい」といった場合は霞ボケとの併用が効かなくなります。

焦点距離を200mm→135mmに変更したので霞ボケが出ていない。NIKON D800E, f/2.8, 1/100秒,ISO100,+1.33補正 135mm / クローズアップレンズ NC キット

ですので、コツとしては

  • 被写体そのものの美しさを表現する。
  • 大きな被写体よりも小さめの被写体を狙う。
  • 日の丸構図を活用する。

のがオススメです。

霞ボケ作例

楓の紅葉による霞ボケ。NIKON D800E, f/2.8, 1/50秒,ISO400,±0補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット (この画像は撮影後に一切レタッチをしておりません。)

秋桜による霞ボケ。NIKON D800E, f/2.8, 1/200秒,ISO100,+2補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット

タンポポの綿毛による霞ボケ。NIKON D800E, f/2.8, 1/500秒,ISO100,+0.67補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット

霞ボケの思考プロセス

では最後に、最近お話をして評判の良かった「一枚の完成写真への思考プロセス」を語って終わりにしたいと思います。
題材は霞ボケの中でも一番のお気に入りでありTOP画像にも使用しております赤秋桜ちゃん。

残香 NIKON D800E, f/2.8, 1/2000秒,ISO100,+2.33補正 200mm / クローズアップレンズ NC キット
(この画像は撮影後に一切レタッチをしておりません。)

まず最初はまだクローズアップレンズの試用段階でしたので手当り次第に秋桜を撮影しておりました。
ここで一つ意識して探したのが「小さめの秋桜」。
まだ少し花びらが開ききっていなくて群生の中でも小さめの秋桜であることが分かりますでしょうか?
次に意識して探したのが背景で光る別の秋桜です。これが超望遠の圧縮効果でほわんと柔らかな丸ボケを作ってくれています。
この時は本当にちょうどよい角度と距離に背景の秋桜が居てくれたので、まずは完全に主役の赤秋桜と背景の丸ボケを日の丸構図で重ねて撮ってみました。
次に主役の秋桜の角度が右上を向いているように見えるので、背景の丸ボケを右上にほんのりとずらすことで画面内に左下から右上に向けた方向性(花の視線と私は呼んでいます)を持たせました。
そしてもう1点、意識したのは四隅。
背景の丸ボケの周りは更に奥の日陰の畑だったので暗く落ちます。この暗部を四隅に配することで額縁効果(周辺を暗くすると真ん中の明るい部分に目が行きやすくなる視線誘導演出)を入れ、より霞ボケでほんわかしている赤秋桜の感情が伝わってくるような1枚となるように撮影してみました。

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか?
霞ボケは今までに見たことのない表現であり、周りに同じ表現をしている人が1人もいないので少し抵抗感を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、このクローズアップレンズ特有の面白い現象を皆さんにもどんどん活用してみて欲しいですし、非常に気軽に始められる撮影法なので1人でも多くの方に挑戦してみて欲しいと思っております。
もし「ほんわか霞ボケ」に挑戦してみて「お、これ良いかも!」というお写真が撮れました時には #nisi や #霞ボケ というタグを付けてSNSなどに投稿してみて下さい。
たぶんきっと、私が颯爽と現れて いいね! して去っていくことと思います(笑)
それでは、また!

クローズアップレンズ NC キット

APO(アポクロマート)設計を採用。色のにじみを抑え、シャープで解像感の高いマクロ撮影を実現

望遠レンズに取り付けることで最短撮影距離を短くし、マクロ撮影を可能にします。焦点距離70mm 〜 300mm(フルサイズ換算時)のズームレンズ/単焦点レンズで、ワーキングディスタンス(※)22cm〜30cmでの撮影が可能となります。

※ワーキングディスタンス:レンズがピントを合わせられる、レンズ先端部から被写体までの最短距離のこと。

長瀬正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室 主宰
日本写真協会 会員
フォトグラファーWEBマガジンXICO クリエイター
NiSi Filters オフィシャルアドバイザー

個展
2014年 HKU SPACE(香港)
2014年 Ⅶ International Tashkent Photobiennale(Uzbakistan)
2014年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2018年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(前橋市)阿久津画廊

合同展
2013~2016・2019年 CP+(パシフィコ横浜) 阿波和紙ブース
2014・2016年 Photokina World of imaging(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年 Creative Japanese Artist in Milan 2014(ITALY)
2014年 Onward-Navigating the Japanese Future 2014(Los Angeles)
2019年  International photo competition ART OLYMPIA (東京都美術館)
2019年  1st Armenian International Photo Festival(Armenia)

パブリックコレクション
2018年 平山郁夫美術館Caravanserai(UZBEKISTAN) 収蔵
2019年 在アルメニア日本国大使館(Armenia)収蔵

実績
2019年 CP+(パシフィコ横浜)NiSiブース登壇
2019年 International photo competition ART OLYMPIA(日本) ​佳作​
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia) 名誉審査員
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia)Master Class セミナー講師

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