可変NDフィルターで広がる写真表現 vol.1
文・写真:長瀬 正太

8月末頃、ある1枚の花火写真が東京カメラ部で話題を集めました。神事を思わせる幻想的な作品に誰もが目を奪われ、次に、「どうやって撮っているの?」と思われたのではないでしょうか 。(東京カメラ部のシェアは2枚目の「表裏」)
撮影したのは、群馬在住の写真家、長瀬正太さん。しかもNiSiの可変NDフィルターを使用しているとのこと。そこで、この写真についてうかがうとともに、可変NDフィルターがひらく写真表現の可能性について、何回かに分けて寄稿いただくこととなりました。第1回目は、話題のこの作品についての解説です。

抱擁 NIKON D800E, f/25, 1/2秒,  360mm  / NiSi 可変ND VARIO

可変NDフィルターで広がる写真表現 INDEX

奉納行事としての、館林手筒花火大会

この写真は、2018年7月21日に開催されました私の地元群馬は館林市にて開催された”館林手筒花火大会”での1枚です。

手筒花火とは、愛知県豊橋市が発祥の地と言われておりおよそ460年前から伝承されている花火です。奉納者自らが作った手筒花火を抱えて点火し激しい勢いで火花を噴射させます。五穀豊穣・無病息災・家運隆盛・武運長久などを祈る奉納行事でもある。(wikipediaより抜粋)

実は私、手筒花火の撮影はこの時が初めてだったのですが…まずはその迫力に圧倒されました。顔の真横から立ち昇る火花とそのまま自身の身体に降り掛かってくる火の粉。そして最後に底に詰めてある火薬が”ハネ”という爆発を起こすまで本当に身じろぎひとつせずに耐え抜くのです。

まさにその姿は祈っているよう。

手筒花火を抱えて噴射させることを放揚(ほうよう)と言うそうなのですが、私にはその言葉が神様へ納める大切な何かを抱擁する意としてしか感じられませんでした。

可変NDフィルターならではの撮影技法

今回の撮影は NIKON D800E に AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR と2倍テレコンバーターである AF-S TELECONVERTER TC-20E III をつけて撮影しました。

これは事前に会場の広さや奉納者の立ち位置などを知り合いが教えて下さったので、数ヶ所ある点火場所全てを狙えるように超望遠ズームレンズを選択しました。

そして今回の撮影のキモは2点。手持ちでのギリギリのスローシャッターと、NiSi可変NDフィルターです。

なぜ手持ち撮影だったかと言いますと、知り合いが確保してくれた撮影場所が三脚NGの場所だったからです。元々私は何年も前から花火の手持ち撮影を行っているのでそのつもりでもありましたが(笑)。そして手筒花火の撮影を考えた時に事前にやってみたいなと思っていた事が「スローシャッターでとにかく火花の線を長く、かつ画面にたくさん入れたい」という演出でした。これには現場にて1/10秒~3秒くらいまでのスローシャッターを色々と試した結果、およそ0.4~0.5秒がベストだったように思います(手持ち撮影での自身の保持力や慣れ、奉納者の態勢のキープ具合によっては大いにブレます)。

そして、画面いっぱいに火花を入れた場合に大事になってくるのがNDフィルターです。その状況でNDフィルターをつけずにここまでのスローシャッターにしようとすると、絞りを最大絞り付近(今回のレンズセットの場合絞りF45)まで絞らなくてはならず、回折現象によって解像度が落ちて火花の迫力が削がれていたと思います。

また、真っ暗な状況で「数ヶ所の点火場所に立つ奉納者にマニュアルフォーカスでピントを合わせつつスローシャッターで撮影する」という点で、ただのNDフィルターではなく可変NDフィルターであることが生きてきます。

なぜなら、レンズに付けたままで1.5~5段の濃度変換ができますから、最初は1.5段の一番濃度の薄い状態でファインダーを覗き、比較的明るく見える状況で目視で奉納者にピントを合わせられます(点火する人の種火に合わせるのがコツ)。

そして実際に点火されてからの撮影時には、スローシャッターでも露出オーバーしないように適宜、濃度を変換して撮影することができるのです。

この「可変NDフィルターを装着したままで一連の操作をシームレスで行える」という事が、手筒花火の進行や奉納者の立ち位置で、フォーカスポイントが変わっていく今回の撮影では非常に役立ちました。

可変ND VARIO

1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルター
可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルターです。ND量はフィルター外周のノブによって容易に調節可能。意図した被写界深度やフレームレートを保持したままで露出を制御することで、より厳密かつクリエイティブな写真/映像表現を可能にします。

色被り補正を必要としないNDフィルター

さらに、これは後から気づいたことなのですが…今までに他社製のNDを重ね付けして長秒露光撮影をした際には必ず撮影後のレタッチで色被り補正をかけていました(私が今まで使用していた他社製NDではグリーンに転ぶのでマゼンタ補正で色補正)。それが今回の撮影では一切撮影後の色被り補正をかけていないのです。

これは「別にNDフィルターで色被りしたとしても撮影後に色被り補正で調整すれば何も問題ない」とも言えますが、元々、私の撮影スタイルのひとつに「太陽のマークのホワイトバランスで撮影し色補正を行わない」というのがあるのです。

これは簡単に言いますと「太陽のマークのホワイトバランスはデイライトフィルムとほぼ同じ色味に仕上がる。」=「カメラの設定を同じにすればフィルムでも撮れる。」という事を意識して行っている私なりのこだわりです。

この点でも「色被り補正をかけて調整して出す色」と「一切色被り補正をしないで自然と出る色」とでは私は大きな違いがあると感じました。

表裏(ひょうり) NIKON D800E, f/22, 1/2秒, 320mm /  NiSi 可変ND VARIO

“可変”なのに、画質の劣化がない理由

これは実は私が一番最初にこの可変NDフィルターを使用する際に気にかかったことなのですが…「もう少し広範囲(例えばND400程度までの濃さ)の可変NDはないの?」ということです。

これについては担当の方にもお聞きしたのですが「可変NDといえば高濃度域でムラが出る、色被りするというお声が多かったのですが、その点をクリアしつつ満足いくクオリティを確保する為にあえてこの範囲に抑えて作られている」そうなのです。

これは前項で書いたように、どの濃度域でも色被りやムラを気にしないで撮影していた事から「あ、なるほど」ととても腑に落ちる回答だったなと思っています(実際に今回の手筒花火撮影ではNiSi可変NDフィルターの濃度域で必要充分でしたし)。

それに今までも日中での撮影でさらなる濃度域が欲しい場合は元々他社製のND400+ND16+ND8なんていう複数枚重ね付けで対処していました。そう考えると今後はNiSi可変NDフィルター+NiSiNDフィルターの重ね付けで対処すれば良いかなと考えています。

可変NDフィルターの可能性に、好奇心が加速する

さらに今は、この可変NDフィルターのメリットを生かしてもっともっと面白い写真が撮れないかなと妄想を楽しんでいます。今回の撮影の様な超望遠ズームレンズに手持ちで長秒露光撮影をするならば…街中のスナップで様々なシャッタースピードコントロールでブレ具合の変化を楽しんだり、動くもの(電車、自動車、バイク、自転車、飛行機、遊園地、水族館、スポーツetc)を色々ブラして撮りまくったら面白そうだなぁなんてニヤニヤしながら考えています。

その1枚が成功するにしろ失敗するにしろ…今までに見たことがないような世界に出会える事だけは確かですから。

長瀬 正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室『Message』&写団「蒼」主宰
「日本写真協会」会員
ヒーコ」記事執筆&セミナー講師
「デジタルカメラマガジン」「NikonD810ムック」他 記事寄稿
「尼康鏡界」(Nikon中国公式Webマガジン)記事寄稿

展示会など

2013~2016年 「CP+」 阿波和紙ブース
2014年「HKU SPACE」個展(香港)
2014年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年「Creative Japanese Artist in Milan 2014」(ITALY)
2014年「Ⅶ International Tashkent Photobiennale」(UZBEKISTAN)
2014年「長瀬正太 和紙写真展 ’心’」(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2014年「Onward-Navigating the Japanese Future 2014」(Los Angeles)
2016年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2017 年「静寂 -短歌と写真が織り成す美しい世界- 」 (沼田市)生方記念文庫企画展
2017 年「ぐんまの景観がこんなにも素晴らしい5つの理由」(群馬県)群馬県立自然史博物館企画展

常設展示

  • ヨガスタジオ ポスチャー様(前橋・高崎)
  • 新前橋かしま眼科形成外科クリニック様
  • オキュロフェイシャルクリニック東京様
    (クリニック様は見学の場合は長瀬まで要連絡)

Webサイト