可変NDフィルターで広がる写真表現 vol.2
文・写真:長瀬 正太

衝撃的な花火写真のVOL.1に続き、第2回目のテーマは「ブルーアワー」、青い時間です。日の出前、日没後の僅かなこの時間に魅せられる風景写真家は多いでしょう。長瀬さんは、そのブルーアワーに対して独特の定義を提唱し、青い写真を撮り続けています。その青い時間に対する定義・考え方と、可変NDフィルターを使った撮影方法について寄稿していただきました。

静の音 NIKON D800E, f/5.6, 60秒, ISO100 24mm / NiSi 可変ND VARIO

可変NDフィルターで広がる写真表現 INDEX

青い時間

今回の写真は長野県佐久穂町にあります湖「八千穂レイク」にてつい先日撮影した1枚です。早朝の4時頃に現地到着、真っ暗な状態から撮影を開始して5時過ぎにこの情景と出会えました。

私が提唱している青い風景写真とは ”デジタルカメラの太陽マークのホワイトバランスはデイライトフィルムと同等の色味になるように設定されている”という仕組みと、”日の出前日没後に太陽の青い波長の光だけが届く僅かな時間(ブルーアワー・ブルーモーメントとも言われる)に世界が青く写る現象”を利用した撮影で「自然界にある本当の青」を追求する為の表現方法になります。

上記の写真はレタッチ無しのストレート現像をしていますし、この時間帯は(暗くて余り見えませんが)目で見ても”見える世界全てが青く被っている”のが分かります。※色被りのほとんどないNiSiフィルターだからこそストレート現像でこの色が出ています。

NiSi可変NDフィルターを使った明け方の撮影技法

そんな青い時間によりよい風景写真を撮影する為、私の場合は明け方の水辺を狙うことがほとんどです。(水辺は映り込みによるシンメトリー世界が描けたり朝靄や霧が出やすいからです)。

そしてこれは風景写真を撮られる方は良くご存知かと思いますが、この時間帯は太陽がぐんぐんと登ってくるので写真の露出が分単位で変わっていきます。青い時間帯も真っ暗から少しずつ青くなり始める最初の方は大丈夫なのですが…日の出直前のギリギリの時間帯に一気に露出が上がってしまいます。

そこで最近私が風景撮影時に良く利用しているのがNiSi可変ND。

60秒1セットという長秒露光撮影(水面の映り込みを滑らかで情緒豊かに表現する為)を持続しつつ、なおかつレンズの最も高解像度になる絞り値(大抵、開放より1段から2段絞り付近)を維持する為にNiSi可変NDをつけ、刻々と変わっていく露出に対してND濃度を変化させる事で対応するのです。

考え方としては、写真の撮りたい明るさ(露出):絞り値:シャッタースピード:ISO感度のバランスを保ったまま1.5~5段分の露出操作が出来ると考えて良いと思います。

さらにカメラの向く方向が変わるだけでも露出が変わることにも留意して欲しいです。カメラが日の上がってきている東側を向いている場合と西側を向いている場合とでも露出が数段変化します。この点に置いてもNDをつけ替えたり増減させることなく濃度を可変させるだけで対応出来る事は今回の撮影時にも大いに役立ちました。

北西を向いた状態 (可変ND1.5) NIKON D800E, f/5.6, 60, 31mm / NiSi 可変ND VARIO

北東を向いた状態 (可変ND4) NIKON D800E, f/5.6, 60, 48mm / NiSi 可変ND VARIO

長瀬流・望遠レンズによる風景の切り取り

先日の撮影では絵作りを意識して広角側を使ってしまいましたが、実は私の風景写真には望遠レンズで撮影されたものが非常に多いです。前回の記事(手筒花火記事リンク)でもそうですし今までの風景写真も AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ という望遠ズームレンズを多用しています。これには”主題以外の余分なものを出来る限り画面外に排除して世界観を統一する”という意味があります。

蒼(そう) NIKON D700, f/2.8, 4秒, ISO200 135mm

特にこちらの写真は創刊より92年を誇る写真雑誌であるアサヒカメラと、国内では最大級のFacebookグループ 東京カメラ部の共催にて行われたコンテスト[日本の47枚]にて栃木県枠(栃木県日光市小田代ヶ原にて撮影)に選出された1枚です。

この頃は残念ながらまだNiSiのフィルターを使用していなかったのですが(2011年撮影)ずいぶん沢山のご来場者の方に観ていただき「こんな色に写る時間があるなんて自然の神秘ですね」といった感想も多数寄せていただき…私の追求してきた青を語るのに欠かせない1枚となっています。

この写真では主題の木々や水面の映り込みよりも遥かに明るい空の部分と画面手前に入ってくる細々とした枝や草を、トリミングを利用しつつ画面外に排除しています。このように目の前の情景をいかに主題が伝わりやすくシンプルな世界観で切り取るのかがポイントとなります。

ただし、望遠レンズによる切り取りでは写真が平面的になりやすいのでご注意を。なるべく霧や朝靄を入れたり前景や後景を利用して奥行き感を出す演出をするようにしましょう。

広角側での注意点

という事で、元々私が望遠レンズ大好き男なので気がつきにくかったのですが…このNiSi可変NDは35mmよりも広角側で、なおかつ最大濃度付近になると画面の一部にムラが出ることに注意して下さい (写真は24mmで撮影、右上と左下にうっすらと色が濃くなるムラが発生)。

これはNiSiの担当から話をうかがったりWikipediaで色々調べているうちに知ったことなのですが…PL(偏光)フィルターを2枚重ねて減光させるという仕組みで成り立つ可変NDの宿命のようなものなのだそうです。この点に関してはNiSiの企業努力による改善を待ちつつも、私は可変の最大濃度付近を使う場合はND8などを足して使うことでフォローしています。ただし、この場合も重ねつけによるケラレに注意が必要になります。

ですのでみなさん、ムラ防止にもケラレ防止にも有効な”長瀬流・望遠レンズによる切り取り方”をぜひとも覚えましょう(笑)

可能性の広がりを求めて

さらに今後は「NiSiのフィルターを使ってみたいけど実際の使い方がイマイチ分からん(汗)」という方や講師独自の撮影法やレタッチなども知りたい。というお声に答えるべくNiSi公認のセミナーや撮影会もどんどん開催していく予定です。

特に可変NDや他のNDと併用した撮影技法や長秒露光撮影時のレタッチまでをも含めた内容でみなさんの写真の可能性をどんどん広げていただけたらと思っております。

新しいことへの挑戦はいつだって楽しい!!

可変ND VARIO

1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルター
可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルターです。ND量はフィルター外周のノブによって容易に調節可能。意図した被写界深度やフレームレートを保持したままで露出を制御することで、より厳密かつクリエイティブな写真/映像表現を可能にします。

長瀬 正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室『Message』&写団「蒼」主宰
「日本写真協会」会員
ヒーコ」記事執筆&セミナー講師
「デジタルカメラマガジン」「NikonD810ムック」他 記事寄稿
「尼康鏡界」(Nikon中国公式Webマガジン)記事寄稿

展示会など

2013~2016年 「CP+」 阿波和紙ブース
2014年「HKU SPACE」個展(香港)
2014年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年「Creative Japanese Artist in Milan 2014」(ITALY)
2014年「Ⅶ International Tashkent Photobiennale」(UZBEKISTAN)
2014年「長瀬正太 和紙写真展 ’心’」(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2014年「Onward-Navigating the Japanese Future 2014」(Los Angeles)
2016年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2017 年「静寂 -短歌と写真が織り成す美しい世界- 」 (沼田市)生方記念文庫企画展
2017 年「ぐんまの景観がこんなにも素晴らしい5つの理由」(群馬県)群馬県立自然史博物館企画展

常設展示

  • ヨガスタジオ ポスチャー様(前橋・高崎)
  • 新前橋かしま眼科形成外科クリニック様
  • オキュロフェイシャルクリニック東京様
    (クリニック様は見学の場合は長瀬まで要連絡)

Webサイト