NDフィルターで撮る花火写真 vol.1
文・写真:山田春子

一瞬のうちに消えゆく見事な花火。花火職人がその技の限りを尽くしてつくり、打ち上げられ、そして消えゆく。だからこそ、花火は写真家にとっても絶好の被写体です。そんな花火を上手く写すためのテクニックを、写真家・写真講師として活躍する山田春子さんに、フィルターワークを中心に、全3回の連載で解説していただきます。

第2回會津全国煙火競演会(福島県会津若松市)2017年11月3日 / NiSi GND8 reverse

一画面内の花火の露出差を、リバースGNDフィルターで解決

花火の撮影をしていると、花火の種類や火花の密集度によって明るさが大幅に違う事に気がつきます。上の写真はスターマインという、短時間に連続して大小の花火が沢山打ち上げられる、とても華やかな場面です。画面の中を、パステルカラー、赤、緑の点滅、銀(白)などが占める、比較的明るいシーンです。特に一番下の噴出の部分はパステルカラーで、しかも火花が密集しているため、上部の割物花火に露出をあわせると、白飛びしてしまいます。

ISO100, F8, NiSi ND4

ISO100, F8, NiSi GND8 reverse

上の2枚の写真は、ほぼ同じシーンを2台のカメラで撮影した写真です(露光時間は完全に同じではありません)。
どちらも ISO 100、F8で、画面上部の花火は同じ明るさで写っています。下の噴出部分は左の写真(単色のND4フィルターを使用)は完全に露出オーバーで色がなくなり、白い塊のようになってしまいました。これを避けるためにF値を絞ると、上の花火が露出不足で写らなくなってしまいます。

それに対して右側の写真は、画面上部の花火をしっかり写しながら、画面下の花火も白飛びすることなく、きれいなパステルカラーを表現できています。こちらはReverse GND8を使用し、グラデーションの濃い部分が下の花火にかかるようすることで、適正な露出を得ることができました。

画面下部の花火の拡大写真です。一つひとつの線がピンクから青、緑、黄、赤、銀へと変化していく美しいグラデーションが表現されています。
ちなみに、この写真のような色が変化する花火を作るためには、「星」と呼ばれる火薬の粒一つひとつに、発色の違う薬品を混ぜた火薬を、何度も丹念にコーティングしているのだそうです。そんな事を知ると、白飛びさせている場合ではない! きれいに撮るぞ、と意欲が湧いてきませんか。

グラデーションを使い分けて、異なる露出を一画面内で適正化

今回使用したのは、GNDフィルターの中のリバースグラデーション フィルター、Reverse GND8です。これは、通常の通常のGNDフィルターと、グラデーションの明暗場所が異なり、中央から暗くなったグラデーションが、再び上部で明るくなるタイプのフィルターです(上図参照)。

今回の作例のように、スターマインの下の噴出部分が露出オーバーになるのを防ぐ為には、Reverse  GND8は強い味方となってくれます。このフィルターは、グラデーションの一番濃い部分が絞り3段分の減光(ND8)、薄い部分が絞り2段分の減光(ND4)となります。この写真では、最も明るい画面下の噴出部分をND8のエリアに、上の花火をその半分のND4のエリアにあわせています。透明のガラスの部分は、この写真では使いませんでしたが、下の暗い地上部を明るく露光したい場合は透明の部分を使います。

リバースタイプでも、通常のGNDフィルターでも、重要なのはグラデーションの境目を構図に合わせて調整することです。撮った画像をこまめにチェックしたり、ファインダーやライブビュー画面を見ながら、フィルターを上下して位置を調節します。シャッターを押さずにファインダー内で花火を見て確認することもあります。

花火の撮影にNDフィルターが欠かせない2つの理由

花火撮影に、NDフィルターを使う理由は2つあります。
ひとつは、被写体が明るすぎて、レンズのF値を最大に絞っても露出オーバーになってしまう場合があるから。
もうひとつは、レンズの回析現象を避けるためです。

光源そのものを撮る花火は非常に明るい被写体で、撮影時には露出のコントロールが大きなポイントになります。少し昔、写真の先生はよく「白い空は親の仇」と言ったものですが、その言葉を借りるなら、「白飛びは花火写真の仇」とでも言いましょうか。せっかくの花火の鮮やかな色が、露出オーバーで色が抜けてしまうのはたいへん残念です。撮影方法には色々な考え方があると思いますが、筆者の場合はNDフィルターをしっかり使って、できるだけ白飛びさせないよう、色が出るように心がけています。

NDフィルターを使用しない場合、カメラのメーカーや機種の特性にもよりますが、ISO100なら、絞りはF13~16くらいが基準になります。単発打ち上げの一般的な花火であれば、多くの花火が適正露出で写せます。
しかし、F値が大きくなるとレンズによっては回析現象(いわゆる「小絞りボケ」)により鮮明な画像が得られない場合があります。そこでND4のフィルターを使用すると、ISO100でF8前後となります。NDフィルターを使用する事でレンズのF値の最も「おいしい」画質の良いところで撮影できるというわけです。
※ カメラの常用の感度がISO 100の場合はND4、ISO 200ならND8を基準にフィルターを用意します。
※青、紫系の花火や、和火という昔ながらの暗いオレンジ色の花火は暗いため、NDフィルターを使用しない方が良い場合もあります。

GNDフィルターの選び方

筆者は花火の撮影の際に下記のフィルターを主に使用しており、被写体の状況と、撮りたい絵に合わせて選択しています。

  • ND4
  • Hard GND4、 Hard GND8
  • Reverse GND8

この写真を撮影した時は、過去の経験や、打ち上げを担当する煙火業者の花火の特徴から、ワイドスターマインの下部が上部より明るいだろうと予測し Reverse GND8 を選びました。予想外の展開になることもありますが、そこが花火撮影の難しく、かつ楽しい部分です。過去にその花火大会でどんな花火が上がっていたか、動画の資料を見たりプログラムのタイトルから想像してフィルターワークの作戦を立てるのはわくわくします。

事前情報が全くない場合は、まず ND4でスタンバイし(カメラの基本の ISO 感度が 100 の場合)、花火を見ながら適宜、フィルターを交換すると良いでしょう。花火撮影のためにまず1枚、GNDフィルターを使ってみるのであれば、筆者は Hard GND4 又は Hard GND8をおすすめします。
「明るい花火と、暗い地上の風景や人物」「明るい花火と暗い花火」などを一緒に写す撮影に役立つでしょう。

GNDフィルターの種類

ソフト:暗い部分と透明な部分の間の、ゆるやかなグラデーションが特徴。前景と空の間に突起物等が写り込むような場合などに使用します。たとえば、山脈や岩などが地平線や水平線の上に配置されるような構図です。通常ソフトグラデーションは、太陽などの光源に直接向けないで使用されます。

ミディアム:ソフトグラデーションとハードグラデーションの中間的なタイプ。高い汎用性を持ち、シチュエーションを選ばずに使用できます。

ハード:暗い部分と透明な部分の間のグラデーションが短いタイプです。地平線や水平線の上に突起物が無いような構図で使用されます。ソフトグラデーションと違い、ハードグラデーションは太陽などの光源に向けて直接使用されることもあります。光源を構図に入れない場合でも、とても特徴的な空を描き出します。水平線や地平線の上に突起物があるなど、ラインが直線でないシーンには適していません。

リバース:ハードグラデーションと似ていますが、フィルターの中央付近が一番暗くなります。太陽などの光源が水平線の上に来た場合などに使用すると、一番明るい部分を効果的に減光してくれます。

次回は、「 明るい花火と、暗い地上の風景や人物のバランス良く撮る」をテーマにお送りします。

山田春子 Haruko Yamada

大阪府出身。美しい風景とドライブが好きで、写真を撮りはじめる。だんだんと撮影の楽しさに魅了され、写真のプロの世界へ。「輝きの瞬間」をテーマに四季の風景写真と、大好きな花火を中心に撮影している。講師活動では年間約80回、延べ1,000人以上を指導。わかりやすいと定評がある。

資格・執筆など
一般社団法人 日本写真講師協会認定フォトインストラクター
クラブツーリズム写真撮影ツアー講師
2018年3月 カメラと映像のワールドプレミアムショー”CP+”の市川ソフトラボラトリー社のブースにて「感動の瞬間を色鮮やかに写す花火撮影とRAW現像」セミナーを開催
2018年6月 写真雑誌「フォトコンライフ2018年夏号」誌面にて、花火の特集記事「花火フォト簡単撮影テクニック」7ページを執筆