文・写真:氏原正智

ウェブマガジンXICOの「芸術流し撮り」連載でもおなじみの氏原正智さん。普通に想像する流し撮りとはひと味もふた味も違う作品は、一度見たら忘れられないインパクトです。その氏原さんが、流し撮りでNiSiの可変NDフィルターを使用されているとのことで、その使い方、ポイントについて寄稿していただきました。

彗星流し。半流しとも呼ばれる撮影技法。露光中に被写体を止める時間とブラす時間を作って彗星の尾を引いたような効果を演出。

  可変NDフィルターで撮る「シャッタースピードの芸術流し撮り」 INDEX

  1. 流し撮りの魅力
  2. 流し撮り概論〜可変NDフィルターの有効性

流し撮りの魅力

被写体のスピード感を一枚の写真で表現することができることが流し撮りの一番の特徴ですが、私はその背景をより美しく流すことでその写真の芸術性を高めることができると考えています。そのため被写体だけでなくその背景にこだわりを持って撮影しています。

また、流し撮りはふつうの撮り方と違い成功率の低い撮影方法です。もし初めて流し撮りを行った場合、100枚に1枚、1,000枚に1枚程度しか成功しないという人も多いですし、熟練者でもその成功率は野球のバッターの打率と同じく2割〜3割といったところでしょう。それゆえにスローシャッターで思い通りの写真がバッチリ決まった時にはまるで特大ホームランを打った時のような達成感が味わえます。

ベーシックな作品例:スローシャッターの一般的な流し撮り。手前や背後でブレさせる背景を意識して撮ると、作品性がアップします!

流し撮り概論〜可変NDフィルターの有効性

流し撮りで最も重要な要素は被写体です。もちろん被写体が走っていなければ始まりません。やはり規則性をもって運動する電車、バイク、クルマ、自転車、飛行機などの乗り物系が導入として撮りやすいですが、慣れてくれば不規則に動く子供たちや動物などもチャレンジしてみたい被写体となります。

撮影機材について

撮影機材については、スマホを含めシャッター速度が変更できるカメラであれば流し撮りが可能ですが、やはり動体予測AFが可能なカメラがおススメです。一般的な一眼レフ、デジイチ、ミラーレス機なら大抵は搭載されていると思います。重要なのは連射速度ではなく、AFの性能です。入門機であっても最近のデジイチ(ミラーレスではないレフ機)は十分な性能を有しています。レンズは広角から超望遠までどんなものであっても構いません。そもそもブレた写真を撮るので、画質にこだわる必要はなく、高価なレンズであれば綺麗な流し撮りができるというわけでもありません。入門機にキットレンズの組み合わせでも、撮り方によって十分に素晴らしい写真が撮れてしまいます。

ユニークな作品 (1):広角流し。被写体をピタッと止めつつ背景を大きく流したダイナミックな作品

注意点(1)白トビの回避

しかしどんなレンズであっても一つ気を付けたいのは、良く晴れた日の屋外での撮影です。撮影モードはシャッター速度優先モードを使用する人が多いと思いますので、絞りはカメラが自動的に判断することになります。この時にシャッター速度を1/30秒、1/20秒、1/10秒という具合に遅くしていくと、絞り(f値)が大きくなりやがて最小絞り(f値が最大)となり、更にそれより遅いシャッター速度では盛大に白トビが発生してしまいます。

注意点(2)小絞りボケの回避

また、絞りが最小絞りに近づくと、回析現象による小絞りボケが現れます。流し撮りの場合、全く同じ撮影条件を再現することが困難なため、このボケがピンボケによるものか、小絞りボケによるものか、単純に手振れによるものかを判別することが難しい場合もあります。

そうするとその失敗を次回の撮影に活かすことが難しくなるので、絞りによる失敗は事前に除去しておきたい要素の一つです。

最適なF値を探す

小絞りボケを回避しつつ、被写体との距離が多少前後することも許容するための被写界深度もある程度確保したいという理由から、絞り開放からやや絞ってレンズの解像度が高くなるであろうF値を探しましょう。もちろん開放のボケも利用したい場合はそれよりもF値を小さくしてもOKですし、太陽が入る場合、光条を活かすためにF値を少し大きめに取った方が良いでしょう。

ユニークな作品 (2):向ってくる被写体に開放付近でボケ効果を取り入れつつズーミングを併用した流し撮り。絞り開放でも可変NDを使ってシャッター速度を落としスピード感を出しつつ、後方の被写体はズーミングとボカしで立体感も演出した作品

NDフィルターの活用

そこで、この絞りをコントロールするために必須となるのはNDフィルターです。経験上ND8もしくはND16あたりが晴天下において1/20秒程度のシャッター速度で適正露出を得やすい暗さとなりますので以前は私も常用していました。0.5秒や1秒といった変態的流し撮りではそれ以上暗いND32やND64などが有効となるシーンも稀にありますが、あまり暗いNDフィルターの場合、ファインダーが暗くなり被写体を捉えることが難しくなり、またオートフォーカスの速度も低下してしまいます。

変化する撮影条件に対応するために、可変NDフィルターを活用する

私もしばらくはND8やND16といった固定NDフィルターを使用していましたが、その場合に問題となるのが刻々と変わる撮影条件です。

太陽が雲に隠れたり、被写体が一時的に日陰に入ったりすると当然適正露出となる絞りが変わってしまいます。また、シャッター速度を変えたい場合、例えば1/8秒で絞りF8となるようにNDフィルターを装着していた場合に急遽1/250秒の高速シャッターが切りたくなったとすると、絞りはF1.4まで上げる必要があります。

開放がそれより暗いレンズの場合は当然ISOを上げて対応する必要があります。ISO高感度を使用することによる画質の劣化と、開放を使うことによるピンボケのリスクも高くなります。NDフィルターを付けていた場合はNDフィルターを外すことでこれらのリスクは回避できますが、フィルターの付け外しは当然面倒だし時間がかかります。そのせいでせっかくのシャッターチャンスを逃してしまっては意味がありませんね。

これらの問題を解決してくれるアイテムがズバリ可変NDです。可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能であるため、上記のようなスローシャッターでも高速シャッターでもNDフィルターを付け外しすることなく減光量を調整して適正なF値かつ低ISOで撮影することができます。

また、最大の5段減光時に暗すぎてオートフォーカスが正確に動作しない場合は一旦2〜3段程度まで戻して少しずつ減光していく、といった使い方もできます。

F値とISOを変えずにシャッター速度を変えながら可変NDの効果をテスト ISO1600、f6.3​  ※クリックして拡大

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可変ND VARIO

1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルター
可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルターです。ND量はフィルター外周のノブによって容易に調節可能。意図した被写界深度やフレームレートを保持したままで露出を制御することで、より厳密かつクリエイティブな写真/映像表現を可能にします。

氏原正智 Masatoshi Ujihara (Uzzy)

フォトグラファー/ITエンジニア

1976年生まれ広島県出身。芝浦工業大学卒業後ITエンジニアとして働く傍らクルマ好きが転じてサーキット、息子の自転車競技などを撮影。日本流し撮り研究所にて流し撮りの撮影技術を学び、主宰する秋ヶ瀬スローシャッターにてオリジナル夜景撮影術を考案。東京カメラ部10選2017に選出。東京カメラ部2018写真展出展。日本流し撮り研究所研究員。秋ヶ瀬スローシャッター主宰。ヒーコ(XICO)にてコラム寄稿中

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