文・写真:久保陽平

画面内の明度差を補正する方法として、GNDフィルターの使用、ブラケット撮影で複数枚を合成する露出ブレンディング、HDRといった方法があります。そして、これらはどの方法を採用すべきかと比較検討される手法でもあります。しかし、そんな2つを組み合わせて良いとこ取りをしてみたら・・・!? ということで北海道在住の写真家、久保陽平さんによる「ハイブリッドブレンディング」のご提案です。

ハイブリッドブレンディング完成例。ソフトGND(ND16)を使用して撮影した2枚の画像をブレンディングした。

「GND×ブレンディング」という手法の発見

GNDフィルターの併用で、かんたん・スピーディな露出ブレンディング

私は以前からGNDフィルターも、露出ブレンディングも目的に合わせて使い分けていて、明暗差のある場面ではGNDを使用、構図や明暗差の度合いによっては露出ブレンディングを採用していました。

ある日、GNDで撮影した写真をレタッチしている時に、シャドー部のクオリティをもっと高めたいと思い、明るく撮影をした別の1枚 (GND使用) を使って、露出ブレンディングをしてみました。すると、驚くほどかんたんに理想的な露出ブレンディングができたのです。クオリティは3枚の画像を使用した露出ブレンディングと比べても遜色のない仕上がり。それなのに、撮影から現像、レタッチにかかる時間は、通常の露出ブレンディングの1/3程度しかかからなかったのです。
その時から、GNDと露出ブレンディングの組み合わせは、私の写真に欠かせないものとなりました。

エリアで分ければ、動体の撮影にも対応

さらに今回紹介する方法では、動体の撮影にも対応できます。GNDを使用しない露出ブレンディングはダーク、ミドル、ブライトといったように露出で3枚に分けるのが一般的なため、波などの動体がある場合は、露出ブレンディングは向いていません(できたとしても処理に膨大な時間がかかってしまいます)。

今回紹介する方法では、地上と空といったような二分割が可能なので、地上に動体が存在していても、比較的簡単に処理が行えます。

そこで私は、「ブレンディングを行うからGNDフィルターを使用しない」あるいは「GNDフィルターを使用するからブレンディングは必要ない」という二者択一ではなく、GNDフィルターとブレンディング両方の利点を活かした「ハイブリッドブレンディング」を提案したいと思います。

撮影/レタッチの方法と手順

それでは、ここから具体的な撮影とレタッチの手順を紹介していきます。

‐撮影編‐ 撮影時の設定と取得するデータ

まず、微妙な構図のズレを防ぐために、三脚の使用は必須です。カメラの設定は、3EV差の3枚ブラケット撮影にし、GNDフィルターをセットします (フィルターの選択については後述)。

この時、真ん中の露出イメージは、少し白飛びをする位に設定します。一番明るく撮影したイメージは使用しません (一応保存はしておきましょう)。白飛びをしていない露出アンダーのイメージ(ダークイメージ)と、黒潰れをしていない少し白飛びしたイメージ(ブライトイメージ)の2枚を使用してブレンディングを行います。

ダークイメージ(GND使用)

ブライトイメージ(GND使用)

GNDフィルターの選び方 – どのグラデーションタイプが良いか

ハードGNDやリバースGNDだと減光部分と透明部分の境界線がはっきりしすぎているため、山の稜線や木、岩などに露出ムラが発生してしまい、ブレンディングには向きません。
そこで、ほとんどの場合でソフトGNDまたはミディアムGNDがおすすめです。
また、減光の濃度はND32だと濃すぎてブレンディングの際にきれいなグラデーションにならない可能性があるため、ND16が理想的です。

グラデーションの種類:(左から) ソフトGND、ハードGND、リバースGND、ミディアムGND

GNDフィルターを使用するメリット

この方法を実践していて改めて感じた、露出ブレンディングにGNDフィルターを使用するメリットは、以下の3点です。

  • 撮影時に完成形のイメージをつくりやすい
  • 撮影時に露出をシビアに管理して撮影をしなくて良い分、撮影時間に余裕が生まれる
  • あらかじめ露出差を埋めておくことで、ブレンディング作業を大幅に効率化

現像、レタッチが当然となってきている現在の作品づくりにおいては、現場でのイメージの構築と、作業の効率化は大きな課題になってくると思います。

GNDを使用しない場合のブライトイメージ

GNDを使用したブライトイメージ

上の画像のように、GNDを使用した方が全体の露出差が少なく、最終的なイメージに近づいています。
カメラの背面液晶で確認する時に完成形とイメージが近いと、家に帰ってからの現像もとても捗ります。

‐レタッチ編‐ Photoshopでの作業

(1) 2枚の画像をレイヤーで重ねる

GNDを使って撮影した、ダークイメージとブライトイメージの2枚を用意します。
ダークイメージを上にしてレイヤーを重ねてください。

(2) ダークイメージを読み込む

レイヤータブでダークイメージを選択し、チャンネルタブで「チャンネルを選択範囲として読み込む」を選択します。

そうするとダークイメージのハイライト部分が選択されます。

(3) マスクの追加

レイヤーの「マスクを追加」を選択します。

ダークイメージのハイライト部分が、下のブライトイメージに適用され、シャドーからハイライトまで、豊富なデータを有したイメージができあがります。

ヒストグラムを見ると、白飛びが抑えられていることがわかります。

ブレンド前

ブレンド後

(4) 画像の統合

(3)の画像を統合し、あとは通常のレタッチフローと同様に、Camera raw等で仕上げていきます。

ブレンディングの失敗例

GNDを使用せずに、ブライトイメージのハイライト部分が白飛びを起こし過ぎてしまった失敗例です。
白飛びを抑えるために露出を抑えるとシャドー部分が潰れてしまい、レタッチで復帰させることができません。また、ブライトイメージが明るすぎると、稜線や枝葉のディティールが損なわれてしまい、きれいなブレンディングができません。

完成例

統合したイメージをCamera rawにてレタッチを行いました。
多くのデータを保有しているため、シャドウのディティールからハイライトのグラデーション、どちらもきれいに表現できました。

まとめ

今回紹介した方法によって、通常のブレンディングと比べて、作業時間をおよそ1/3に短縮できました。
最終的に完成したイメージも、3枚ブレンディングとなんら遜色のない結果が得られています。
作業時間の短縮というのは、思ったよりも大きなメリットです。それは多くの写真を撮影し、取り扱えばより明確な効果として現れます。

また、この方法はブラシツールや、複雑なマスク処理をする必要がないので、とても簡単です。ブレンディングが難しそうでなかなか取り組めなかった方も、GNDは使ったことがないという方も、この方法でもっと風景写真を楽しんでいただければ幸いです。

GND

風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングが施された高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。
構図に合わせてフィルターをかける位置を調整することができるため、表現の幅をより一層たかめてくれます。

久保 陽平 Yohei Kubo

1990年北海道札幌市在住。
大学卒業後、広告会社とブライダル写真館にてカメラマンとして従事。
2019年9月に独立をし、フリーランスフォトグラファーに。
現在は井上浩輝氏のアシスタントを行いつつ、北海道の風景を撮影、雑誌への寄稿、その他の撮影を行っている。

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