GNDフィルター入門 vol.1
文・写真: Christian Hoiberg 翻訳:山本 高裕

ノルウェー在住の風景写真家であり、メディアやオンラインで様々な撮影方法のレクチャーを行うChristian Hoiberg氏のテキストです。GNDフィルターの使い方について、これから初めてGNDを手にする方を対象に、目的、フィルターの種類、メリット、デメリットまでていねいに解説。GND入門の決定版です。

撮影に関して私が最もよく聞かれるのは、前景(地上の風景)と空を同時に適切な露出にするにはどうしたらいいか、ということです。空が白飛びしてしまうか、風景が黒つぶれしてしまう。そんな経験はありませんか?写真全体を適正な露出に保つために苦労していませんか?この問題を解決するには2つの方法あります。露出を変えて撮った複数の写真を合成するか、GNDフィルターを使うのです。

GNDフィルターは多くの写真家に欠かせないツールとなっています。本記事では、それがどんな物で、どのように使うのかをお教えします。

GNDフィルターとは?

私のNDフィルターの紹介記事「NDフィルターを使うとあなたの写真がより美しくなる理由」をすでに読んでいらっしゃるなら、GNDフィルターのこともすでにご存じかもしれません。

GNDフィルターは暗い色のガラス製またはレジン製の板で、レンズの前に配置して使います。普通のNDフィルターと同様に、カメラに入る光の量を抑える効果があります。NDフィルターとGNDフィルターの違いはというと、後者は板の一部だけが暗い色になっているのです。つまり、フィルターは写真の一部だけの光量を抑え、そのほかの部分は光をそのまま透過するのです。

GNDには3種類の暗さが用意されています。1段、2段、そして3段分の減光効果を持つものがあります。分かりやすく説明すると、光を多く透過する物があれば、透過する光をより抑える物もあるということです。ここで次のような質問が出るかもしれません。いったいなぜ、写真の一部だけを暗くする必要があるのか、と。でも、その話はもう少し後に回したいと思います。

ソフトエッジとハードエッジ

GNDには減光効果の異なる3種類があるとお話ししました。ここでもう一つお話ししたいのは、それぞれに2つのバリエーションがあるということです。それはソフトエッジとハードエッジです。

ソフトエッジとハードエッジとでは、暗い部分と透明な部分の境界が異なります。上の写真を見てください。右と左のフィルターの違いがわかりますよね。左はハードエッジのGNDです。ND効果のある部分と透明な部分の境目がはっきりしていて、中間の色がありません。一方、右側のフィルターは、暗い部分から透明な部分の移り変わりが緩やかでです。そのため「ソフトエッジ(境界が緩やかな)」フィルターと呼ばれるのです。

一概にどちらがより優れているとは言えません。どんな状況で使いたいかによって変わってくるからです。地平線が平らならハードエッジがいいかもしれません。起伏があるならソフトエッジがいいかもしれません。ソフトエッジを使えば、明暗の移り変わりが緩やかになりますから、明暗の境目が写真にくっきりと残るリスクを避けることができます。

リバースGNDフィルター

GNDフィルターという名前を聞いたことがある方なら、リバースGNDという言葉も聞いたことがあるかもしれません。普通のGNDと同じで、リバースGNDも一部が暗くなっています。違いはというと、普通のGNDの場合、フィルターの最上部が最も暗く中間部(透明な部分との境界)で最も明るくなるのに対し、リバースGNDはその逆になります(最上部が最も明るく、中間部で最も暗くなります)。

3段分の減光効果があるリバースGNDフィルターを持っているとしましょう。フィルターの最も暗い場所(3段減光する場所)が、透明部分との境目にあるのです。そしてフィルターの上部には1段分の減光効果しかありません。つまり、フィルターの上半分の暗くなっている部分を見ると、上部の方が下部よりも多くの光を通すのです(フィルターの下半分は普通のGND同様に透明です)。

このフィルターが活躍するのは、太陽が沈もうとする時間帯、つまり地平線のすぐ上だけが明るい時間帯です。普通のNDフィルターを使っても構いませんが、そうすると、写真の上の方が暗くなりすぎてしまうかもしれません。地平線部分はまだ明るいのに、フィルターの上の方が最も暗くなっているからです。

光量が最も抑えられるのは、フィルターの最も暗い部分です。リバースGNDのように、この最も暗くなる部分を地平線側に配することで、光のバランスを正しく保つことができます。つまり、地平線付近が露出オーバーにならず、上の方の空のディテールも残すことができるのです。

どんなときにGNDフィルターを使うか

GNDフィルターは露出オーバーになりがちな空を適正に保つ効果がありますが、いつでも使えるわけではありません。フィルターの暗い部分と透明な部分の境界は水平になっています。つまり、その境界より上にあるものは、すべて暗く写ってしまうのです。

従って、使いたくない場合もあるでしょう。山や木、人など、地平線より高い部分に位置するものも、フィルターの影響を受けてしまいます。最高の場面を台無しにしてしまうかもしれません。そこで、私の説明をより良く理解できるよう、いくつかの例を見ることにしましょう。

GNDフィルターが使えるケース

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上の写真は、ハードエッジのGNDフィルターが使える最もよい例です。水平線が一直線で、フィルターの境界をそこにぴったりと合わせることができます。この写真は日没直後に撮ったもので、空はまだとても明るかった。しかし、前景部分はかなり暗くなっていて、空と美しい岩場の間には大きな明暗差がありました。この光量バランスを整えるため、私は3段分の減光効果があるGNDフィルターを使い、空のディテールと色をしっかりと残し、同時に前景を狙った通りの明るさに保ちました。

この写真は少し難しかったです。地平線はほぼ真っすぐですが、森のあたりに明暗の境目をくっきりと付けてしまわないよう注意が必要です。こんな場合が、ソフトエッジのGNDフィルターの出番です。ソフトエッジなら、写真に明暗の境目をはっきり残すこともありません。

この写真を撮ったとき、空は水面よりもずっと明るかった。水面の映り込みが完璧だったので、フィルターがなければ、この空と映り込みの両方をパーフェクトに写すことはできなかったかもしれません。

森の辺りの明暗の変化をなだらかにできるので、このような場面ではソフトエッジのGNDを使うのがいいと話しましたよね。でも、私がここで使ったのは実はハードエッジでした。本当です。森の上ではなく、陸と水面の境目にフィルターの境界を合わせたのです。境目をそこに合わせた理由はというと、実際の森の方が映り込みの森よりもずっと明るかったからです。ハードエッジのGNDを使うことで、陸と水面の両方を同じ明るさで捉えられた、というわけです。

覚えておいていただきたいのは、撮影の際、フィルターの使い方にルールはないということです。最終的なイメージを思い描き、光をしっかり見取りましょう。もし、ハードとソフトの両方を持っているなら、どちらも試してみるといいと思います。

GNDフィルターが効果を発揮した写真をもう1枚だけ見てみましょう。これも判断が難しい場面でした。一見すると、山があるのでGNDフィルターは使わない方がいい思うかもしれません。でも、少し前に書きましたが、ルールから外れて、ときにチャレンジすることも必要です。

ここでは山が地平線の上にあり、さらに地平線がまっすぐのためGNDフィルターが使えました。山全体が地平線の上にあるため、フィルターの境界と地平線をしっかり合わせれば、写真のおかしな場所に明暗の境目ができることはありません。

このとき、私はリバースGNDフィルターを使いました。フレームの右側からの陽の光がとても強かったからです。リバースGNDを使うことで、ハイライト部の白飛びを防ぐことができ、また、空の上の部分の明るさを適正に保つことができました。

このようなケースでは、現像時にライトルームなどのアプリケーションを使う必要があるかもしれないことは頭に入れておいてください。フィルターを使うことで山が必要以上に暗くなってしまうため、最終的に暗部を持ち上げる必要があるかもしれません。

GNDフィルターが使えないケース

おわかりになってきたかもしれませんが、GNDフィルターはどんな場面にも使えるわけではありません。山や木が多かったり地平線が平らではなかったりするときは、フィルターの使用は控えたほうが賢明でしょう。さらに理解を深めていただくために、GNDフィルターを使わないほうがいい例をいくつか見てみましょう。

アイスランドで感動的な日の出を撮り、車に歩いて戻る途中でこの廃屋に通りがかりました。この風景に感じるものがあったので、私は少し時間を取ることにしました。数枚の写真を撮ったあと、この風景が今回のような記事にぴったりの例だと気が付きました。

上の写真を見るとおわかりいただけると思いますが、空の色が白っぽくなってしまい、写真としてあまり面白いものとは言えません。空がとても明るかったため、明暗差のある風景を満足に捉えることは不可能でした。

下の写真の場合はそれと逆の問題が生じています。空はだいぶいい感じに撮れましたが、今度は建物が暗くなりすぎています。また、フィルターが建物のすぐ近くの地面を暗く覆ってしまっているのもわかると思います。このときフィルターの境界が地面と合っていなかったのです。

下の写真もフィルターの使用が適していないよい例です。今回はポストプロセスの話はしませんが、この問題を回避するテクニックはあります。例えば、露出を変えて撮影した複数の写真を合成するようなテクニックです。ライトルームのようなアプリケーションを利用すれば、明部を抑えたり暗部を持ち上げたりすることも比較的容易です。でも、これは書き出すと長くなるので、また別の機会にしましょう!

終わりに

この記事を読んで、GNDフィルターへの理解を深めていただけたでしょうか。先にも書いたように、使い方にルールはありません。いろいろ試し、失敗することから多くのことが学べます。

フィルターが使える場面や使えない場面など、私がお話したことを覚えておいていただければ、みなさんの撮影技術はきっと向上するでしょう。GNDフィルターは素晴らしいツールで、美しい写真を撮る手助けとなります。とはいえ、どんな場面にも使えるわけではなく、合成などの手法で似たような結果を得ることもできるのです。

Christian Hoiberg

NiSiアンバサダー。ノルウェー在住の風景写真家。
N Photo Magazine、Landscape Photography Magazine、Camera Pixio、Resource Travelなど、さまざまな雑誌に作品を発表。2016年よりウェブサイト、Capture Landscapesにて撮影講座を開催。作品は風景写真家。撮影のための30のTIPSをウェブサイトで無料で公開。

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