文:長瀬 正太

良い写真とはどういう写真でしょうか・・? それは「撮影者の思いが伝わってくる写真」である、と定義する写真家の長瀬正太さん。では「伝わる写真」とは? 今回は写真撮影の基本とも言える「良い写真とはなにか?」をテーマに、1枚の写真を手がかりにして解説していただきました。

撮影: Ye Mao / Enhanced CPL + ND 64, F13, ISO100, 25s

こんにちは、写真家の長瀬です。
今回の記事は、1枚の写真から見えてくる伝わる写真に大切な4つのポイントという内容になります。その1枚の写真というのは今回の表紙となっている写真。たまたま目にした1枚なのですが、とても良い写真だなぁと思い選ばせて頂きました。

なぜこの1枚を選んだのかといいますと、とてもシンプルに撮影者の伝えたいことが伝わって来ますし、その為に押さえてあるポイントが非常に分かりやすかったからです。

今回お話するそのポイントをしっかり理解して習得することが出来れば、自分の思いがしっかりと伝わる良い写真が撮れるようになれます。すると、身近な人に自分の写真を見せた時にも相手に自分の感動がしっかりと伝わるようになるので、ますます写真を撮ることが楽しくなると思いますよ。ぜひ、目を皿にしてじっくりと読んでみて下さい!

もし一度で理解できない部分などもあれば何度か回数を重ねて読むこともお薦め致します。

良い写真ってなんだろう?

さて、冒頭でも「自分の思いがしっかりと伝わる良い写真」と書きました。では「良い写真ってなんだろう?」と考えたことはあるでしょうか?例えば、 「美しい写真」「格好良い写真」「壮大な写真」「可愛い写真」「迫力ある写真」etc…といった写真なんかも良い写真だと思います。

なぜなら、「美しいなぁ… 」「格好良いなぁ… 」「壮大だなぁ…」 「可愛いなぁ…」 「迫力あるなぁ…」といった、撮影者がシャッターを切る時に感じていた思いが伝わってきた写真だからです。つまり、撮影者の思いが伝わってくる写真というのが良い写真なのです。

そして、ここも非常に大切なことなのですが、その「撮影者の思い」というのは主観(本人が感じたこと)なので、そのままでは第三者には伝わりにくいことが多いのです。では、「撮影者の思い」の事を客観的に言うとどうなるかといいますと、それは「撮影者の意図」と言い変えることが出来ると思います。なぜなら、シャッターを切る時に感じた思いを「どう撮ったら第三者に伝わるかな?」と考えることこそが写真における意図だからです。

まとめます。良い写真とは「撮影者の意図が伝わる写真」と言えるでしょう。

では改めて表紙の写真を見てみます。

この写真から伝わってくるのはまずなんといっても主役となる植物の生命力ではないでしょうか。川の流れの真ん中に鎮座する岩があり、川面からちょこっとだけ頭をだした部分に根を張り、必死に生きている様子が伝わってきます。また、全体的にダークトーンで暗い印象の写真の中で光を受けている葉っぱが引き立ち、その凛とした立ち姿からも自然の力を感じます。
さらに水面は滑らかに落ち着いていて静謐な印象を受けます。大自然の中でただただ寡黙に生きている強い意志のようなものも感じられるのではないでしょうか。

撮影者の意図が非常に伝わってくる良い写真だと思います。

では、この写真がどうして「こんなにも意図が伝わってくるのか?」を一緒に考えてみましょう。

伝わる写真の4つのポイント解説

この写真を「伝わる写真」にしているポイントは次の4つです。

    1. 構図
    2. 対比
    3. 視線誘導
    4. 要素の引き算

どれも非常に大切なポイントなので一つずつ丁寧に解説していきますね。

1. 構図

A:岩の上の植物以外をフレームアウト B:植物を左に寄せて、水の動きを強調

構図とは「意図を伝えるための写真内の構成」のことです。

これは文章構成に似ていますね。内容がグチャグチャだったり、言いたいことがあっちへいったりこっちへいったりとはっきりしない下手な構成の文章は、ひどく伝わりにくい文章になります。(気をつけねば 汗)

その点を踏まえても、まずなによりこの写真が真っ先に構図で行っているのは、伝えたいことの中心となる「岩の上の植物」以外の生命を感じる被写体をすべてフレームアウトさせていることです。そうすることで写真を見る人に「この岩の上の植物が主役ですよ」という意図がバシッと伝わる構成にしているのです。

また、実はこの写真からは川の流れている方向がはっきりとは分かりません。ですが、主役をやや左側に配置することで右から左に流れているような水の動きを感じさせてくれます。
なおかつ、草が少し右に傾いている点と、その水の動きを感じる空間を広めに取ることによって自然と川の流れにあらがっているような力強さが感じられるように構成されています。

結果として「主役の植物から生命力を感じる」という意図が伝わるのです。

2. 対比

左図:植物の「明るさ」に対して、周囲の「暗さ」という対比 右図:植物の「緑」に対して、周囲の「黒」という対比

対比とは「明るさや色の差、コントラストで主役を引き立たせる」ことです。

これはいうなればスイカに付ける塩。塩のしょっぱさでスイカの甘さを引き立たせる、という味の対比を利用している訳です。

そして、ここでは暗く落ちている川面に囲まれている部分に光を受けている植物の葉を置き、明るさの差を作ることで主役を引き立たせています。同時に、黒が主体の部分に緑を置くという色の対比も成立していて非常に上手いと思います。

3. 視線誘導

視線A:明るい植物へと自然と目が行く 視線B:明るい方向へと自然と目が行く

視線誘導とは「心理を利用して構図の中に方向性を持たせる」ことです。

例えば指先でしょうか。人間は指先が向いた方向やその先に自然と目が向きます。

この写真では「人間の視線は自然と明るいところへ向く」という心理を利用して日陰の中で光を受けている岩の上の植物に視線を誘導しています。次に写真右上の明るい空間の映り込み。この明るい部分を右上に配置することで植物に向かった視線をそのまま右上へと誘導させられています。そうすることで、岩の上の植物がそちらを見ているような、光に向かって必死に身体を伸ばしているかのような雰囲気も出ているように感じます。

素敵な演出ですね。

4. 要素の引き算

写真を始めたばかりの頃に「写真は引き算が大事!」なんて言われることもあるかと思いますが、これは「意図を明確にするために構成要素を整理する」ことです。

今回の写真では、意図を伝えるのに邪魔となる要素を引くことで整理しています。が…整理する前後で比較しないと分からないので、こちらはビフォー・アフター写真を交え、次項でより詳しく解説したいと思います。

要素の引き算をより詳しく解説

(左)フィルターなし (右)フィルター使用

こちらがビフォー・アフター写真です。
「え、実際の撮影現場ってこんななの!?」と感じるくらいにビフォー画像とアフター画像の違いに驚かれたかもしれません。私もピックアップした後にビフォー画像を見せて貰い、あまりの違いにちょっと驚きました。

この2枚、よく見比べてみますと…大きな違いが2点あることが分かります。

1. 反射を抑える

まず1点目は川面に写っている空の反射が抑えられている点です。

ここではPLフィルターを使うことで反射を切っています。その結果として写真全体2/3くらいにかかっている白い反射がなくなり、写真の中の要素が整理されてすっきりとしているのが分かります。

また、絶妙なのは写真下部の空の映り込みは消える角度にあるのに対して、写真右上の明るい部分は川向こうの明るい場所の映り込みのために角度が変わり白さが残っていることです。要素として邪魔になる空の反射は抑え、かつ、前述した視線誘導に有効な明るい部分は残しているのですね。これは写真の中の光線の角度と、PLフィルターの効果的な角度をよく知っているから出来る演出です。

素晴らしいと思います。

2. さざ波を消す

2点目はさざ波を消している点です。

ここではNDフィルターを使い長時間露光をすることでさざ波を消しています。煩雑だった水の流れの線がすべて整理され、主役である岩の上の植物の存在感が見事に引き出されていますよね。

また、ちょっと理解しづらい部分かもしれませんが、川の流れのうねりという要素を整理することで写真から聞こえる音が変わるという効果もあります。

ビフォー画像の様子からすると川の流れは急ですし、さざ波がたくさん写っていれば写真から聞こえてくる音は「サーサー」ですとか「ザーザー」といった具合ですよね?
ところが、さざ波が整理されたアフター画像の様子にはそのような印象はなく、滑らかな水面からは「シーン」といった静けさが伝わってきませんでしょうか。

つまり「音を引き算する効果」もある、と言えます。
写真から伝わってくる音まで変えてしまうなんてすごい効果ですよね。

感動を伝えよう

いかがでしたでしょうか?
たった1枚の写真ですが、思いが伝わる良い写真を撮るために大切なポイントが丁寧にこめられていることが分かりますよね。今回のポイントが分かると、自分が「良いな」と感じた写真を見た時にも、その写真の意図が伝わってくるポイントに気が付けるようになります。
また、撮影現場でも自分の意図を伝えるための工夫を写真にこめられるようになります。

つまり、あなたの写真を見た人にしっかりと自分の感動が伝わるようになるのです。

そうなることであなたのこれからの撮影がますます楽しくなることを願っております。
それでは、また。

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風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングを施した高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。

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被写体表面の余分な反射やグレアを抑制したり、太陽光を偏光して大気のカスミを除去・より明瞭な像を得ることができます。

長瀬正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室 主宰
日本写真協会 会員
フォトグラファーWEBマガジンXICO クリエイター
NiSi Filters オフィシャルアドバイザー

個展
2014年 HKU SPACE(香港)
2014年 Ⅶ International Tashkent Photobiennale(Uzbakistan)
2014年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2018年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(前橋市)阿久津画廊

合同展
2013~2016・2019年 CP+(パシフィコ横浜) 阿波和紙ブース
2014・2016年 Photokina World of imaging(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年 Creative Japanese Artist in Milan 2014(ITALY)
2014年 Onward-Navigating the Japanese Future 2014(Los Angeles)
2019年  International photo competition ART OLYMPIA (東京都美術館)
2019年  1st Armenian International Photo Festival(Armenia)

パブリックコレクション
2018年 平山郁夫美術館Caravanserai(UZBEKISTAN) 収蔵
2019年 在アルメニア日本国大使館(Armenia)収蔵

実績
2019年 CP+(パシフィコ横浜)NiSiブース登壇
2019年 International photo competition ART OLYMPIA(日本) ​佳作​
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia) 名誉審査員
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia)Master Class セミナー講師

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