昼間なのか夜なのか、海なのか空なのか。長瀬正太さんの撮る大洗・神磯の鳥居は「無」を感じる静かで厳かな佇まいです。この場所にどのようなインスピレーションを受けて切り取ったのか、考え方から撮影の工夫まで、一連の流れを伺いました。

写真・長瀬正太

NIKON D800E, AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR, 34mm, 120秒, F8, ISO100, NDフィルター使用

■撮影のストーリー

太陽のキラキラに感動。鳥居を神様の通り道に見立てた

僕の場合、下調べはあまり入念にせず、現場で見て感じ、心が動いた瞬間を切り取るようにしています。とはいえ、大洗には何度か足を運んでいるので、どの方角から何時頃太陽が昇るかといった、最低限の撮影感覚は持っていました。
このときは、海に反射する朝陽のキラキラを見た瞬間、その美しさに大きく心が動きました。そこで、逆光にシルエットで浮かぶ神秘的な鳥居を主役にし、神々しい雰囲気を切り取りたいと考えました。撮影をするとき、僕はいつも捉えた風景に「物語性」を見つけ、それをどう表現するかを考えています。

この写真を撮るまでの試行錯誤

①太陽のキラキラにインスピレーション
日の出前の明け方4時30分頃に車で現地に到着。辺りはまだ真っ暗だったので、車中で仮眠。太陽が昇り始めると、その光が海に反射してキラキラ輝いていました。突き動かされるように、鳥居の近くまで走って行って撮影の準備をしました。

②神様の通り道というストーリーが思いつく
最初は太陽を外した構図で撮っていたのですが、途中からあえて太陽を入れた構図に変更。その理由は、「太陽」は「神様」、「鳥居」は「神様の通り道」というストーリーが浮かんだからです。空は神様の住む天上界で、水平線を境目に我々が住む地上界がある。光の道によって、神様と自分が一直線につながっているように感じました。天上界と地上界の境目を強調するため、水平線にあえて鳥居のラインを重ねようと考えました。

③雲の動きを流したい
次に考えたのは、雲の動きです。太陽が昇ってからの撮影なので、光量は十分にあり、普通に撮影すると雲は速いシャッター速度で写し止められます。でも僕は「天上界にある雲」は、人間の目には捉えることのできない異世界感を表現したいと考えました。そこでシャッター速度を遅くして雲を流すことを考えました。

④静けさの邪魔をする朝焼けの「赤」を取り除く
太陽光下での撮影では、ホワイトバランスは通常「晴天」や「太陽光」などにして撮影するのですが、このシーンでは朝焼けの赤みと紫が雲と海面に強く出てしまいました。荘厳で静かな物語性を表現するには、この赤みや紫はざわついて邪魔だったので、撮影時は「白熱灯」にして、レタッチにて彩度を下げました。

⑤RAW現像で荘厳な色合いに仕上げる
画像は後から編集ができるように、必ずRAWでも撮影しています。最終的にはモノトーンにして余計な情報を排除し、「神様の通り道」という物語性がより増す仕上げをイメージしながら撮影しました。

■撮影のテクニック

テクニック1 神様の通り道を意識した構図

構図のポイントの1つめは、「水平線と鳥居のラインを重ねる」ことです。ちょっとしたアングルの違いでうまく重ならないので、ライブビューで構図を微調整しました。2つめは、「太陽と鳥居の両方を入れる」こと。最初は下のようにアップで太陽をフレームアウトして撮影していましたが、神様の存在があまり感じられなかったので、レンズを24-70 mmに付け替え、24mmで太陽まで取り入れました。通常は要素を引き算していくので、このようにアップから引きの構図へと足し算するのは珍しいのですが、物語を伝えるために新しい世界が広がりました。

NIKON D800E, AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR, 85mm, 120秒, F8, ISO100, NDフィルター使用
70-200 mm85mmで太陽を外した構図。アップだと鳥居そのものが主役になります。

テクニック2 120秒の長時間露光

波を絹のように滑らかに捉え、目に見えない雲の流れを捉えるには、シャッター速度を遅くする必要があります。通常60秒程度が目安になりますが、ここでは雲の流れを線のようにするために、120秒の露光にしたいと考えました。そこで、15段分を減光するためにNDフィルターを重ね付けしています。可変フィルターは回すだけで光量を調整できるので、最後の微調整がスムーズです。

絞りはF8に設定しています。もっと絞り込めば減光することもできますが、絞り込むと光条が出るため、力強い印象として描写されます。ここでは柔らかく包み込むような光として捉えたかったので、F8程度に留めています。

60秒で撮影

120秒で撮影

テクニック3 ホワイトバランスとRAW現像で理想の色彩に

撮影時のホワイトバランスを「晴天」「太陽光」などのデイライトに設定すると、下の写真のように赤みが強く残ります。できるだけ仕上げのイメージに近い状態になるよう、撮影時は「白熱灯」に設定して撮影しています。
RAW現像は Adobe Photoshop Camera Rawを使用しています。フィルムの現像処理の、「銀残し(ブリーチバイパス)」という仕上げをイメージして、コントラストを上げて彩度を下げています。

WB「晴天」で撮影

雲と海面の映り込みに朝焼けの赤みが残ります。

COLUMN 月夜も赤みが残る

下の写真は、20時頃に月光で撮影したものです。月をホワイトバランス「太陽光」で撮影すると、かなりオレンジが強くなります。月光での撮影時も、太陽と同様に「白熱灯」にして彩度を下げ、色みを引き算することが多いです。

WB「晴天」

WB「白熱灯」

可変ND VARIO

1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルター
可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルターです。ND量はフィルター外周のノブによって容易に調節可能。意図した被写界深度やフレームレートを保持したままで露出を制御することで、より厳密かつクリエイティブな写真/映像表現を可能にします。

長瀬正太 Shota Nagase

1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室 主宰
日本写真協会 会員
フォトグラファーWEBマガジンXICO クリエイター
NiSi Filters オフィシャルアドバイザー

個展
2014年 HKU SPACE(香港)
2014年 Ⅶ International Tashkent Photobiennale(Uzbakistan)
2014年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2018年 長瀬正太 和紙写真展 ’心’(前橋市)阿久津画廊

合同展
2013~2016・2019年 CP+(パシフィコ横浜) 阿波和紙ブース
2014・2016年 Photokina World of imaging(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年 Creative Japanese Artist in Milan 2014(ITALY)
2014年 Onward-Navigating the Japanese Future 2014(Los Angeles)
2019年  International photo competition ART OLYMPIA (東京都美術館)
2019年  1st Armenian International Photo Festival(Armenia)

パブリックコレクション
2018年 平山郁夫美術館Caravanserai(UZBEKISTAN) 収蔵
2019年 在アルメニア日本国大使館(Armenia)収蔵

実績
2019年 CP+(パシフィコ横浜)NiSiブース登壇
2019年 International photo competition ART OLYMPIA(日本) ​佳作​
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia) 名誉審査員
2019年 1st Armenian International Photo Festival(Armenia)Master Class セミナー講師

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