写真家 本間昭文さんに訊く

一眼レフでお子さんの写真を撮り始めてから、写真に興味を持ち、風景写真へと傾注していった本間昭文さん。美しい風景を追い求めるうちに、日常生活では目にすることのない光景に出会ってゆきます。夜明け前のブルーアワー、日没前後のマジックアワー、そして、デジタルカメラが撮影可能にしていった夜という領域。次々と絶景を目の当たりにした本間さんは、さらなる高みを目指し、それまで経験したことのない冬山の世界へと足を踏み入れます。前進を続ける写真家の心を、厳冬の高山にまで駆り立てる風景写真の魅力とは何か? 本間昭文さんに訊きました。

Alps Galaxy 撮影地:北アルプス Nikon D4, 25 sec, F2.8, 14mm, ISO3200

とりあえず風景写真を撮ってみたらハマった

____ 写真をはじめたきっかけを教えてください。

2012年頃に一眼レフのエントリー機を買って、子どもの写真をモノクロで撮っていたのですが、その中の1枚が、大きくないコンテストながら部門大賞をいただきました。それで写真が面白くなって、風景写真も撮ってみようと、とりあえず撮ってみたら、これがまた面白いんです。それまで風景写真など、あまり気にしたことはなかったのですが、一気に好きになりました。

____ なぜ、風景写真が好きになったのですか?

風景を撮りはじめると、いろんな場所や時間帯で撮ってみたくなって、遠くに出かけたり、普段は寝ている時間帯でも写真を撮るようになりました。そこには僕が日常、目にすることのない景色があったんです。ブルーアワーやマジックアワーのきれいな空、雲海、夜の星とか、こんなにすごい世界があるんだなって。それで風景にどっぷりとハマってしまいました。

大勢の人が見てくれたことが次の作品を生む原動力

Down Dew 撮影地:鳥海山 Nikon D4, 200sec, F14, 220mm, ISO100

____ 本格的に写真を撮るようになったターニングポイントはありますか?

この写真は2015年バンガード×東京カメラ部フォトコンテスト最優秀賞を受賞し、同じ年の東京カメラ部10選にも選ばれました。大きな賞をとって、大勢の人が僕の写真を見てくれたことが次の作品を生む原動力になりました。「次もがんばろう!」って。
この写真の撮影場所は鳥海山で、季節は6月頃。本当は星空を撮りに行っていたのですが、明け方に「あれ、雲海が出てきたな」って気づいて撮りました。たしかND400のフィルターを使って、3分くらい露光したと思います。雲海の中にポツポツと顔を出しているのは風力発電の風車ですが、雲海との対比として良いアクセントになっていたので、人工物をあえて入れて撮影しました。まだレンズもフィルターも良いものを揃えていない時の作品なので、解像度とかはあまり良くないのですが、水色の雲海の中に微かに朝焼けのピンク色の混ざる景色がたまらなくきれいで、シャッターを押しました。

Alps Galaxy 撮影地:北アルプス Nikon D4, 25 sec, F2.8, 14mm, ISO3200

こちらの写真は、第56回富士フィルム写真コンテストで銀賞をいただいた北アルプスから見た天の川と雲海の作品です。この場所へはずっと行こうと決めていて、毎日その山の天気予報をチェックしていたのですが、なにしろ山の天気ですから、夜まで晴れている日はなかなか無くて。それでもズーッとチェックしていたら、ちょうど2日間だけ晴れている日があったので、前日の夜に家を出て、朝、長野に着きました。用意した機材がすごく重かったので、撮影場所まで7時間かけて登り、山小屋泊まりにして、昼間のうちに天の川の位置を確認したりして夜を待ちました。この写真を撮ったのは夜明け前で、画面の右側が明るいのは、朝日が昇る光ではなくて、半月が沈んでいった月の残光です。天の川と山だけでなく雲海も出てきた夜明け前、山の上で目にした景色は文句なく最高でした。

風景写真をはじめてから山に登るようになった

red color 撮影地:桃洞渓谷 Nikon D4, 41sec, F13, 24mm, ISO100, ND64

____ 山からの風景写真を主に撮られているのですか?

山の風景は大好きですが、山の写真だけ撮っているわけじゃないです。実は、風景写真をはじめてから山に登るようになったのですが、それまでは山にさほど興味があったわけじゃありません。ただ、日常生活で目にすることのない景色が、山にあったんですね。賞をいただいた写真も山からの風景だったことも大きいのですが。
上の写真は、秋田県北秋田市阿仁の桃洞渓谷で撮影した紅葉の写真ですが、山じゃなくて渓谷です。真っ昼間でしたが水の流れが速かったので、試しに10秒の露出で撮ってみたら、浮いている紅葉がきれいに円を描いて流れていくのが分かりました。どのぐらいの大きさの円になるか想像して構図を決め、ND64フィルターを使って30秒の露光時間で撮影したら、こうなりました。
この時使ったレンズはニコンの14-24mmF2.8の超広角ズームですが、このレンズには円形フィルターが使えないので、NiSiのフィルターホルダーと角型フィルターを使っています。僕には「超広角レンズを使ってダイナミックに風景を撮りたい」という思いがあるので、このレンズは僕のお気に入りです。なので、このレンズに使えるNiSiのフィルターも必須アイテムです。

他社製の樹脂フィルターでは納得できなかった

Cold wind 撮影地:八幡平大沼 Nikon D4s, 138sec, F13, 14mm, ISO100, ND1000

____ フィルターを使うようになったのは、いつからですか?

2014年頃からだったと思います。実はNiSiのフィルターを使う前に他社製の角型フィルターを使っていたのですが、そのフィルターは樹脂製なので傷が付きやすく、ガラス製のフィルターに比べると、やっぱりちょっと画質が劣るんです。NiSiのフィルターは、愛用の14-24mmF2.8のレンズに使えるフィルターということで知り、すぐ購入しましたが、ガラス製ということもあり画質の良さに納得しています。ただ、ガラス製なので取り扱いは大変で、一度落として割ってしまったことがあります。すぐに買い直しましたけど。(笑)

上の写真もNiSiのフィルターを使って撮った初雪の八幡平・大沼の写真です。ここは雪が降りだすと通行止めになってしまうのですが、初雪の日なら通行止めにならないことを知っていたので、初雪の日を狙って夜の間に現地に向かい、朝に撮影しました。初雪は午前10時頃には溶けて消えてしまうことと、本格的に冬が来ると湖が凍ってしまうので、「雪景色と湖水」という写真は、このタイミングでしか撮れないんです。最初は色々な角度から撮っていたのですが、水面が落ち着いているものの、上空には風が吹いていたので、空と水面に映る雲を流して撮影しようと思い、CPLとND1000のフィルターを使って撮りました。やはり、四季の変わり目は良い写真が撮れるんですね。

自然が好きなので雪山も海も川も撮り続けたい

Rice terrace morning 撮影地:北秋田市 Nikon D4s, 1/25 sec, F10, 17mm, ISO100, GND8 soft

____ お気に入りの風景はありますか?

これは地元にある、まだあまり知られていない棚田の写真です。超広角で撮っているので、分かりづらいかもしれませんが、奥に小さく棚田が並んでいます。朝日がすごく良い位置から昇ってくれるし、人工物もほとんど見えない場所なので、僕の好きな場所です。何度も撮影していたら農家の人と仲良くなって、時には犬の散歩を手伝わされたりしてますね。(笑)それで「SNSとかで、この場所を広めてもいいか?」って聞いたら、「いいよ」って言ってくれたのですが、そのせいで人が大勢来て、中にはマナーの悪い人が居て、ゴミを捨てたり、田んぼが荒らされたりしては困るので、撮影場所は秘密にしておきます。この写真はGNDを使って、稲刈りの前の時期に撮っています。余談ですが、同じGNDフィルターといえども、年々進化していますので、良いものが出たらどんどん買い直そうと思っています。

Mountain of autumn 撮影地:涸沢カール Nikon D4s, 120 sec, F13, 16mm, ISO100, ND1000

この写真は山が好きな人には有名な涸沢カールの紅葉です。手前にある真っ赤に色付いたナナカマドに20cm近くまで寄って、超広角レンズで絞りをめちゃくちゃ絞って撮りました。山の上からこちらに向かってくる雲の感じが、なんとも言えず良かったので、雲を流すために ND1000フィルターを使っています。よく知られた場所なので、この時も写真を撮っている人は300人くらい居たのですが、僕のようにごっつい三脚とデカいカメラを使っている人は、ほとんど居なくて、フィルターを持って来ている人も、少なかったように思います。涸沢カールのように有名な撮影スポットで、人と違う写真を撮るためにも、フィルターワークは大切だと感じました。

風景が好きになって山に登るようになって、秋の涸沢カールにも出かけたわけですが、一昨年くらい前から地元の山に、冬も登るようになりました。冬、その山の山小屋は閉まってしまうのですが、避難小屋として使えるので、ビーコン(雪崩遭難用電波発信機)やGPSを持って、ひとりで登っています。小屋があれば命はしのげますから。風景写真が撮りたいだけで始めた雪山登山ですが、雪山での撮影はこれからも続けていこうと思っています。そして、山に限らず、海だったり、川だったり、きれいなブルーアワー、マジックアワーがあれば、フィルターワークも含め、それを撮り続けていこうと思います。僕は自然が好きだから。

本間昭文 Akifumi Honma

1974年秋田県秋田市生まれ。秋田市在住。
自然が織り成す四季折々の素晴らしい風景を追い求めて、北東北を中心に撮影している。

コンテスト等受賞歴

  • 2015東京カメラ部10選
  • Nikon×東京カメラ部 山のある風景フォトコンテスト グランプリ
  • 2015バンガード三脚を使ったフォトコンテスト グランプリ
  • 第64回 ニッコールフォトコンテスト ネイチャー準特選
  • 第56回 富士フイルムフォトコンテスト ネイチャー銀賞
  • その他受賞多数

雑誌掲載

  • 『デジタルカメラマガジン』『日本カメラ』等

Website