シミズエリの北海道撮影記 vol.1

今年の2月に、写真を撮りたくて千葉から北海道に移住したシミズエリさん。同時に、全国を飛び回る撮影の仕事も獲得。プロの写真家としてのキャリアもスタートさせています。そんなシミズさんのスタートしたばかりの北海道写真家生活をNiSiフィルターとともにほぼ月イチペースで綴っていただく本企画。折々の、みずみずしい北海道レポートが期待できそうです。

みなさん、初めまして。清水愛里です。

この連載ではこの冬北海道に移住した私シミズエリが、北海道のとっておきの1枚を目指し撮影して行く様子をお伝えします。今回はまだ雪深い阿寒湖にて、NDフィルターを使用しての撮影を行ったときのお話です。

阿寒湖は道東屈指の絶景を見られる湖として有名な場所ですが、まだ訪れたことがありませんでした。ここはなんとしてでも行かなければ! と、今回の道東遠征で向かうことにしました。北海道の撮影で大変なことのひとつは、その移動距離です。200キロ以上(多いときは300キロほど)を移動しながら撮影をしています。自宅から阿寒湖までの距離も例外ではなく、およそ240キロの道のり。道東を撮影してまわっていると、5時間以上の道のりを運転することも少なくありません。今回は別の撮影ポイントから阿寒湖に向かいましたが、帰りはこの距離を走破しました。青い缶の飲料が欠かせない距離です…!

さて、阿寒湖といえば有名なのは特別天然記念物の“マリモ”。そして、阿寒湖の冬の名物、“ボッケ”。マリモはみなさんご存知だと思いますが、ボッケは知らない方も多いと思います。ボッケとは小さな泥火山のことで、噴火によってできたカルデラ湖である阿寒湖の周りでは90度以上もある熱湯が常に湧き上がり、冬でもその上に雪が積もることがないそうです。残念ながらこの日は気温が高かったのですが、マイナス20度以下にまで下がるとボッケ周辺の木々が真っ白に凍りつく「霧氷」の様子が見られるそうです。これはいつか必ず撮りたい光景です。阿寒湖畔の森の小道でボッケのロケハンを終え、さらに湖に近づいてみることにしました。

冬の終わりが少しずつ近づく阿寒湖では、氷結していた湖の一部が解け出していました。その奥には色とりどりのテント。テントの中ではワカサギ釣りを楽しんでいるそうです。北海道ではこんなテントをあちこちの湖で見かけることができ、見かけるたび面白い光景だなと感じていました。流れ出る雪解け水のせせらぎ音に耳を傾けながら、カラフルな可愛いテントの向こうに男らしくそびえる立派な雄阿寒岳を眺めました。なんて気持ち良い景色なんだろう。私はそのコントラストに惹かれ、少し変わった視点で目線よりも低い位置からこの景色を撮ってみたいと思いつきました。三脚をセットし、まずは1枚撮影します。

阿寒湖(フィルターなし)SONY a7R3, f/11, 1/200秒, ISO100, 16mm

透き通ってとても綺麗な水が日に照らされ、湖の底がよく見えています。このままでも綺麗なのですが、違った撮り方でこの水の流れをより美しく写したいと思いました。そこで…フィルターの出番です!

レンズは直径72mmのSONY SEL1635Zを使用しているので、100mmの角型フィルターを使います。フィルターが落下して氷の下に潜り込んでしまっては大変なので、フィルターホルダーを取り付けるときはきちんと引っかかっているか注意深く確認します。

無事にフィルターセッティング完了です。水の流れを滑らかに写すため、シャッタスピードがより長くなるように、フィルターはND1000を選びました。

SONY a7R3, f/11, 10秒, ISO100, 16mm, NiSi ND1000

先ほどのフィルターなしの写真とは水面の表情がガラリと変わりました。明るい昼間の時間帯だったため、ND1000を使用してもシャッタースピードは10秒でしたが、この日は風があったので雲も少し流れました。可愛いテントの色合いと、どこか神秘的な表情の水面と雲の流れ。このギャップが気に入りました。

私がいつも写真を撮る上で考えていることは、見たことのないような写真を撮りたいということです。たくさんの人がとってきた被写体でも素敵だと思うポイントは人それぞれ違うと思います。例えば今回のような写真を撮るとき、光が素敵だと思う人がいれば、雲の流れに惹かれる人もいるでしょう。そうして自分が良いなと感じたものを表現することができれば、必然的に人に伝わる素敵な写真になっていくのではないかと考えています。今回、私は水の流れに注目してフィルターを使用して撮影してみました。フィルターを使用した撮影は目では見えない世界が見えてくるのが面白いです。シャッターを切り終わり、背面ディスプレイを覗き込むときのワクワク感、たまりません。

ここで、道具に関する小話をひとつ。撮影中、さらさらした雪が風で舞い上がり、フィルターの表面につくことがありました。フィルターに汚れがついてしまったかと心配でしたが、ブロワーを使って簡単に水滴を吹き飛ばすことができました。フィルターについた水滴はぷるんと弾かれるんです。

風景写真家のために設計されたNiSiのフィルターは、Nano IRコーティングという特別な仕様が施された高品質な作りになっていて、キズや汚れを防いでくれます。自然の中で撮影をしていると、突然の雨や強風など思わぬハプニングに見舞われることも多々あります。そんなとき、撮影道具の強度が求められます。万が一、雨や雪で濡れてしまったときでも安心感がありますね。

さて、撮影が終わったら、緊張感を切らさずに道具を片します。いつどんなことが起きるかわからないので、家に帰るまでが撮影!の気持ちを忘れずに。おっと…道具に気を取られるあまり、後ろ姿に気を配れていませんでした。ズボンが下がっていますが、パンツが見えていないのでご愛嬌ということで…!

今回はフィルターを手にしたらまずは撮影したい水の流れを撮ってみました。風景を撮影している方は、普段から三脚は必須アイテムだと思います。そこに、フィルターホルダー、必要に応じてアダプターリング、そしてフィルターがあれば簡単にフィルターワークを始めることができます。フィルターを手にすると撮影の幅が広がるので、これからどんな写真が撮れるのか楽しみです。風景はもちろん、フィルターを使った動物写真などの動体の撮影にもどんどん挑戦したいと妄想中です…!まだフィルター撮影に慣れていない方や、これからフィルターを使ってみたいと思っているけどどう始めたらいいか迷っている方。一緒にフィルター撮影を楽しんでいきましょう!

さて、今回は晩冬の阿寒湖の撮影についてお話してきましたが、ここで私シミズエリがどんな人物なのかお話したいと思います。

私は写真を撮りたくて、今年2月、厳冬の北海道に移住してきました。大晦日生まれの私は空気の澄んだ冬が大好きで、北国への憧れがありました。昔から、ビビビ!と感じると一直線な性格。写真と出会って約1年半後、北国への憧れを抑えきれず、気がつくと北海道民になっていました。

写真との出会いについては、すこし変わっているかもしれません。写真と出会ったのは、前職での仕事がきっかけでした。2017年の初夏、北海道を中心に活躍するキタキツネ写真家・井上浩輝さんの写真展の企画が取引先から舞い込んだのです。この頃、私は一度も一眼レフカメラを手にとったことがなく、写真の知識もゼロでした。しかし、テレビ番組「情熱大陸」の中で、寝っ転がりながら夢中でキツネの写真を撮る井上さんの姿は鮮烈な記憶として残っていました。「なんて面白い人がいるんだろう!」と。そこで、私は一目散にその企画を担当したいと手を挙げました。

そこからの私は写真展の仕事にどっぷりハマり、写真のなかの動物たち、そしてその背景に広がる素晴らしい北国の景色に惚れて、来る日も来る日も写真の世界に浸って過ごしました。物心ついてから北海道に行ったことがなかった私は、「この素敵な写真の、ファインダーの向こうの世界はどんなだろう」と、まだ見ぬ北国の大自然を想像しました。ずっと関東で暮らしてきた私にとって、北海道という地は遠い外国のような存在だったのです。井上さんのお話を聞いているうち、憧れだった北国への気持ちはどんどんと強くなり、気がつくと私もその世界で写真を撮ってみたいという思いが湧き上がってきました。そして、その願いは現実になるのです…!

2017年9月。私は思い立って北海道の東、道東の知床へ向かいます。滞在時間およそ24時間の弾丸旅です。世界自然遺産、知床。大自然の素晴らしさは想像をはるかに超え、私はその魅力にすっかり飲み込まれてしまいました。夜の林道で見つけた大きなクマのフン。ほかに何も灯りのない森で感じた月の光。静けさ残る朝のキツネとの出会い。力強く広がる森の緑。そのすべてが感動的で、音を立てて私の世界が変わっていくのを感じました。

「私は“日本”を知らなかった」

思わずそう呟いたのを今でも思い出します。そうして魔力を感じるほどの大自然の魅力にとり憑かれた私は、移住前から月に一度のペースで北海道へ飛び、何度も道東、知床へ通いました。

…と、自己紹介が長くなってしまいました。まだまだこの続きをお話ししたいのですが、また次回!ということで、移住後の今もやはり道東の大自然に惹かれ、撮り回る毎日を送っています。次回も北海道の大自然の中、フィルターを使った作品を撮りたいと思います!

シミズエリでした。
また次回お会いしましょう!

NiSi NDフィルター

風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングを施した高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。
NDフィルターを使用し絞り込んだ状態で撮影する際、赤外線の影響による色かぶりが問題となることがあります。NiSiのフィルターは、IRコーティングにより赤外線をカットし色かぶりを解消、自然な色合いを再現します。

清水 愛里 eillie shimizu

1989年千葉県生まれ。前職で企画・運営を担当した写真展(写真家 井上浩輝さんや半田菜摘さん、日経ナショナルジオグラフィック)の仕事をきっかけに写真と出会う。その中で自身でも写真を撮りたいという強い思いが湧き上がり、カメラを手にする。北海道を訪れた際、その大自然の素晴らしさに圧倒され、それからは毎月のように北海道に通い、写真撮影をするようになった。2019年2月、写真の町・東川町に移住、念願の北海道民となる。企業広告写真の撮影をしながら、北国の地で美しい風景の中の動物や自然風景を被写体に作品作りをしている。

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