シミズエリの北海道撮影記 vol.5

美瑛町の「白金不動の滝」で、NDフィルターを使った長時間露光撮影。夏の北海道、朝4時、滝のある渓流。ひんやりとした空気が届きそうなレポートです。

本州ロケ、台風、「ただいま、北海道」

北海道は夏真っ盛り。よく晴れた日の照りつける太陽の下でもカラッとした空気が気持ちよく、時折吹く風がとても心地よい季節を迎えています。じめっとした梅雨の時期が苦手な私は、このさわやかな北海道の気候を感じるだけで幸せな気持ちになってしまいます。
先月の終わりには月に一度出かけている取材撮影の仕事で台風迫る北陸・東海地方へ1週間滞在していたので、北海道へ戻ってきて全身で感じた乾いた夜風にひときわの幸せを感じました。取材から帰ったその日に夜の街を歩いていると、さあっと風が吹き抜けたのです。その心地よさに思わず、「ただいま、北海道」と呟いてしまったのはここだけの話です。移住をして5ヶ月、ついに北海道民の身体へと変化してきたようです。

取材撮影には月に一度のペースで1週間ほど出かけています。航空会社のもとで旅行販売を行う会社が運営する、“旅”を提案するWEBページの撮影を行う仕事です。作品としては北海道の動物や風景を追い求め撮影していますが、全国各地の魅力を伝えるこの取材撮影での被写体はさまざまです。観光スポットや食はもちろん、その土地ならではのお店や体験を取材することもあり、そんなときは人を被写体として撮影することも多々あります。撮影地域は全国で、ひと地域を1週間ほどでまわる取材は時に大変な面もありますが、こんな風にして実際にその土地へ行き、その場の空気感までも感じながら撮影をしていくこの仕事は、毎回新しい発見ばかりです。現地でしか味わえない、足を運んでみなければわからない魅力で日本は溢れているなと、取材撮影の旅に出るたび毎回感じています。
先日、三重県の海女小屋での取材があったのですが、そのなかで実際に海女さんが着ているユニフォームを着させていただく機会がありました。着てみてびっくり、なんだかとてもしっくりきました…!現地ならではのこういった体験ができることもこの仕事の大きな魅力だと感じます。

滝を探して、美瑛町、白金不動の滝へ

さて、そんな梅雨の本州での撮影を終え、帰った北海道で撮りたいもの。私はこの夏を迎えた北海道で涼を感じる滝の撮影をしたいと思い立ちました。北海道にある滝を調べていくうちに、私の住む東川町の隣町、よく撮影にも出かける美瑛町にも「白金不動の滝」という滝があることを知りました。私はこの滝で思い描くような作品が撮れるのではないかとお思い、向かってみることにしました。ある日の早朝、目を覚ますと外は曇り空。空気がひんやりとした朝でした。外が明るくなった4時すぎ、車で40分ほどの目的地へ向けて出発です。入り口に着いてみると、こんな石碑が出迎えてくれました。

この滝は白金新四国八十八ケ所という参道のひとつになっていて、パワースポットとしても人気だそうです。道中には石仏が並んでいて、澄み切った朝の林道を歩きながら、なんだかとてもありがたい気持ちになります。石仏の前でお辞儀をしながら、早く滝を見たいと焦る気持ちを抑えながら進んでいきます。

迫力ある滝の流れを表現したい

林道を歩くこと数分、大きな水の流れが見え、思った以上の迫力にひとり思わず声をあげてしまいました。他の人の姿は見えず、滝を一人占めの贅沢な時間です。朝のやさしい光りの中で勢いよく流れる滝。ザーッと響く水の音にしばらく耳を傾けてしまいます。白金不動の滝は奥行きもあり、高さは約25mあるそうです。この滝の水は十勝岳などの地下水が集まって流れ出しているのだとか。この迫力のある流れの滝を1枚の写真で表現したいと思いました。長靴を履いているので、水の中に入る準備は万端。早速、浅瀬の場所に三脚を立て、撮影してみます。

SONY a7R3, f/13, 6秒, ISO100, 22mm, NiSi ND64

大きく倒れる一本の木が気になり、大胆に手前に来るようにして撮影してみました。水の流れは滑らかに写し撮れるようND フィルターを使い撮影してみましたが、この構図だと主役が倒れ木になっているのでフィルターを使い伝えたかった美しい水の流れを十分に伝えられません。さらに、倒れ木の手前側は水の流れが止まってしまっているので、このポイントでは滝から勢いよく流れ出る水の流れを主役にして写し撮れないと思い、より流れが大きく写るよう少し奥に移動して再度挑戦してみることにしました。

SONY a7R3, f/13, 5秒, ISO100, 16mm, NiSi ND64

5秒/74秒、露光時間で変わる水の質感

構図がガラッと変わったことで、遠く奥から手前への奥行き感がぐっと広がり、岩の間を縫うように流れる水が合わさっていくさまを写し撮ることができました。今度は水の流れを主役とした構図で写し出せそうだと、何度もシャッターを切りました。フィルターを交換しながら撮影を続けていくと、水はさらに滑らかに写し出され、より一層思い描いていた1枚に近づいていきました。時計をみるとそろそろ時間は6時を過ぎるころ。次の撮影地に移動することを考え始めたときでした。背の高い木々に遮られていた太陽の光がさっと差し込んだのです。ファインダーを覗きながら、私は横顔を照らす光を感じてとても嬉しくなりました。

SONY a7R3, f/13, 76秒, ISO100, 16mm, NiSi ND1000

フィルターをより減光量の多いND1000に変え露光時間が5秒から76秒になったことで、水の流れをより滑らかな質感で表現することができました。特に手前の水の流れに注目してみると、光に照らされ、まるでシルクのように白く浮かび上がります。放射状にある周りの緑も視線を滝の水へと注目させてくれる良い脇役となっています。私は多くの場合、「あともう少し」と思い、なかなかその撮影を切り上げられないのですが、この日はそんな諦めの悪さが功を奏しました。待って待って、納得のいく1枚が撮れないことももちろん多くあります。後ろ髪を引かれる思いで「明日はきっと良い写真が撮れる」と自分に言い聞かせながら、車を自宅まで走らせる切ない日もありました。しかし、今回の撮影では最後の最後にシャッターを切った1枚がもっともお気に入りの写真になりました。最後まで粘ってよかったと、太陽の差すほうを見て心から感じました。

目で見えない世界をカメラが見せてくれる長時間露光

滝という被写体は今まであまり撮影したことがなく、水に入っての撮影は初めてだったのですが、水の流れを写し撮る楽しさを今回の撮影でさらに感じることができました。フィルターを使うことで、目で見えない世界をカメラが見せてくれるというのも写真の面白い世界だとあらためて感じます。そして、その中で自分がその被写体のどういった面を写し出したいのか。今回の被写体の滝で言うならば、水が弾ける躍動感なのか、滑らかな水の流れなのか。こうして自分の表現との関係でフィルターという道具をうまく活用していければ、見る人に伝わる作品が撮れるのではと今回の撮影では強く感じました。ひとことで水といっても今回のような滝、そして、川や海、湖などいろいろな被写体があるので、この夏の期間、水を主役にした撮影にさらに取り組んでいきたいと思います。

シミズエリでした。
また次回お会いしましょう!

NiSi NDフィルター

風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングを施した高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。
NDフィルターを使用し絞り込んだ状態で撮影する際、赤外線の影響による色かぶりが問題となることがあります。NiSiのフィルターは、IRコーティングにより赤外線をカットし色かぶりを解消、自然な色合いを再現します。

清水 愛里 eillie shimizu

1989年千葉県生まれ。前職で企画・運営を担当した写真展(写真家 井上浩輝さんや半田菜摘さん、日経ナショナルジオグラフィック)の仕事をきっかけに写真と出会う。その中で自身でも写真を撮りたいという強い思いが湧き上がり、カメラを手にする。北海道を訪れた際、その大自然の素晴らしさに圧倒され、それからは毎月のように北海道に通い、写真撮影をするようになった。2019年2月、写真の町・東川町に移住、念願の北海道民となる。企業広告写真の撮影をしながら、北国の地で美しい風景の中の動物や自然風景を被写体に作品作りをしている。

Webサイト