シミズエリの北海道撮影記 vol.6

夏、真っ只中の北海道で、昨年冬以来の再訪となった函館、大森浜にて、函館の夜景と雲と波の長時間露光撮影。函館にビーチがある、というのも道外の人にとっては新鮮かもしれません。

北国の夏、1年目の夏

8月もお盆を過ぎるころ、北海道では夏が終わりに近づいています。この夏は移住してきて初めて迎える北国の夏。私は去年までとは少し違った気持ちでした。もともと暑さが苦手な私は夏があまり得意ではありません。しかし、今年、夏という季節が好きになったことは間違いないようです。北海道は空が広いからか、私には太陽のジリジリがより強く感じられるのですが、関東で過ごしていたときに感じていた梅雨から夏のあの不快さはなく、30度を超える暑さの中でもとても清々しく感じました。一日中、肌が焦げそうなくらい太陽が照りつけた日には、あるキタキツネが私と同じように暑そうにハアハア言いながら目の前を通り過ぎていきました。私はその姿に思わず「暑いよね」と声を掛けてしまうのでした。

また別の日には、もう夏が終わってもいいと感じてしまうくらい暑かった日の夕暮れ時、私は美瑛の丘の上で撮影していました。とその時、まだ少し汗をかいていた体に少しひんやりとした心地よい風がさあっと吹き抜けました。日中の暑さなんてすっかり吹き飛んで、夏よ終わらないでと願ってしまうくらい、少しずつ沈んでいく太陽を見つめたあの時間は幸せなものでした。そんな体験が私にとっての夏、北国の夏をより一層素敵なものにしてくれました。

再訪の函館へ

さて、そんな夏真っ只中の季節、撮影のため、道南一の観光都市、函館へ行くことになりました。実は函館には以前に一度、撮影に訪れたことがあります。今年の2月、移住してまだ1週間も経たない、雪道の運転にもまだ慣れていないころでした。それは厳冬期の北海道での移動の過酷さを知る大変な撮影旅となるのです。

その日は運悪く高速道路が通行止めになるほどの大吹雪となってしまい、視界が真っ白になるホワイトアウトを人生で初めて経験しました。ほんの一瞬真っ白な世界を抜けたと思ったらまたすぐに真っ白…ハンドルをぎゅっと掴み、手に汗握りながら進んでいると、何も見えない真っ白な世界が永遠に続いていくような気すらしました。そんな恐怖のホワイトアウトを経験しながら、なんとか函館までの500kmという距離を走破したのでした。

無事に函館にたどり着き、最初に口にしたラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガーの味は忘れられません…!食べる前の儀式として、しっかり写真におさめました。

そんな思い出の函館に今度は夏の時期に訪れることができるということで、私はとても楽しみでした。冬の時期に見たあの素敵な景色は、夏の今どんなだろう。そんな思いを胸に函館へ向かいました。

レトロな洋館や古い街並みなどのイメージが強い函館ですが、前回訪れたときの記憶から、私の中には函館の海がとても印象深く残っていました。地図を見てみると、函館は周囲を海に囲まれた半島の街だということがわかります。有名な八幡坂を登れば振り向いた先に海、金森倉庫を歩いてふと横を向くと海。もちろん、世界三大夜景のひとつが望めると有名な函館山からも、周囲に海が見渡せます。

前回冬に訪れたとき、とても綺麗な朝日を撮影した場所がありました。津軽海峡に面した、函館山から東へのびる大森浜という海岸です。道路を背にして正面には彼方に青森県の下北半島を望むことができる、とても気持ちの良い海岸です。

2枚ともに2019年2月10日撮影、大森浜にて

夕暮れの大森浜

時刻は19時を過ぎたころ。夏の函館の街がそろそろ夕暮れ時を迎えようとしていました。私は真冬の函館で朝日を見たあの大森浜に、今度は夕方の日が暮れてゆく時間に行ってみたくなり、綺麗に染まる空を横目に大急ぎで大森浜へと向かいました。車で走りながら函館山を探すと、函館山には何やら不思議な雲がかかっていました。大森浜に到着すると、すぐさま撮影開始です。

SONY a7R3, f/11, 1/4秒, ISO100, 40mm, フィルターなし

海岸線の向こうに函館山がそびえ、残照が山のシルエットを浮き立たせます。日が沈み、空の色がみるみる変わっていく、とっておきの時間のはじまりです。私は手を止めることなく、シャッターを切り続けました。そんな中、山の形に沿って湧いてくるようなこの不思議な雲を長秒で写し撮りたいと思いつきました。フィルターを付けたり外したりしながら、シャッターを切っていきます。

日が沈み、あたりがだいぶ暗くなってきた19時半ごろ、函館山の麓の街灯りが綺麗な時間になりました。まずはフィルターなしで撮影してみます。

SONY a7R3, f/11, 1.3秒, ISO100, 43mm, フィルターなし

不思議な雲はもくもくと湧き続けています。だんだんと暮れてゆく空の色はピンク色から紫がかった色に変わり、しっとりと良い雰囲気に包まれます。山の頂上に見える展望台の灯りもちょこんと可愛らしく光っています。とここでNDフィルターをセッティングし、撮影することにしました。綺麗に染まる空の色と街の灯りを写すにはラストチャンスの時間でした。

ND64で波と雲を流す

SONY a7R3, f/11, 56秒, ISO100, 43mm, NiSi ND64

選んだフィルターはND64。この時、だんだんと潮が満ちてきていて、数回に一度、足元まで打ち寄せるような波がやってきていました。私はそんな波が打ち寄せたり引いたりする様子もうまく表現したいと思い、露光時間を1分ほどにできるND64というフィルターを選びました。

露光時間は約1秒から56秒になり、函館山を囲む雲だけでなく、空に浮かぶ雲や波も流れ、滑らかな質感になりました。ベールに包まれたような函館山。夏の夕方、しっとりと暮れていく函館の景色を撮影することができました。函館は街でありながら、海や山といった自然も多くある魅力的な場所だと感じます。今回の撮影ではそんな函館の魅力を一枚の写真の中に写し撮れたようでとても嬉しくなりました。

移住してきて半年、移住した当初に撮影した函館という街で撮影することができ、当時を振り返る良い機会となりました。そして、私が初めて一眼レフカメラを手にしたのは、2017年8月4日。この夏は写真を初めてちょうど2年になるときでもありました。たった2年の月日ですが、それまでの人生では考えられないくらい多くの経験をし、世界が目まぐるしく変化したこの月日はものすごく濃く、私にとって特別な時間だと感じます。1週間、1ヶ月も経つと、それまでの自分とは違う、別の自分に変化していくようなスピード感。ふと立ち止まって今自分のいる場所を見回してみると、写真と出会う前はまったく知らなかった世界に踏み込んできたことを実感します。今ここにいられるのはたくさんの方のおかげだとあらためて感謝の気持ちでいっぱいです。作品をたくさんの方に伝えらえるように、これからもっともっと突き進んでいきたいと思います。

シミズエリでした。
また次回お会いしましょう!

NiSi NDフィルター

風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングを施した高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。
NDフィルターを使用し絞り込んだ状態で撮影する際、赤外線の影響による色かぶりが問題となることがあります。NiSiのフィルターは、IRコーティングにより赤外線をカットし色かぶりを解消、自然な色合いを再現します。

清水 愛里 eillie shimizu

1989年千葉県生まれ。前職で企画・運営を担当した写真展(写真家 井上浩輝さんや半田菜摘さん、日経ナショナルジオグラフィック)の仕事をきっかけに写真と出会う。その中で自身でも写真を撮りたいという強い思いが湧き上がり、カメラを手にする。北海道を訪れた際、その大自然の素晴らしさに圧倒され、それからは毎月のように北海道に通い、写真撮影をするようになった。2019年2月、写真の町・東川町に移住、念願の北海道民となる。企業広告写真の撮影をしながら、北国の地で美しい風景の中の動物や自然風景を被写体に作品作りをしている。

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