シミズエリの北海道撮影記 vol.7

今月は「積丹ブルー」、の手前でカモメに出会ったお話です。長秒で撮りたい波の表情、その間動いてもらっては困るカモメたち、そのバランスがほほえましく、絶妙な作品です。

神威岬の「積丹ブルー」を目指して

今、北海道では転げ落ちるように秋に向かっています。朝晩はだいぶひんやりとして、寒がりな私はすでに薄手のダウンを着てしまう日もあるくらいです。関東にいたときは残暑が続くこの時期、いつまでも暑い日々が続いて早く冬が来ないかなと過ごしていました。北海道では一瞬で過ぎ去っていく夏に名残惜しささえを感じながら、気持ちの準備もできないまま足早に秋に向かっているなぁと身をもって感じます。

そうはいっても、日中はまだまだ強い日差しを感じる日もあります。毎日気象予測を知らせてくれるアプリを確認しながら、明日はどこが良さそうだろうと撮影に出かけていますが、この暖かい季節のうちに出かけたい撮影地がありました。それは神威岬です。神威岬がある積丹半島は北海道の西側に位置し、日本海に面して突き出た半島です。北海道の西にある持ち手のような部分の北側と言ったら分かりやすいでしょうか。日本海がそんなに青いというイメージはないかもしれませんが、積丹半島、神威岬では「積丹ブルー」と呼ばれる、南の海のようなどこまでも青く澄んだコバルトブルーの海を見ることができます。その「積丹ブルー」の海を見たくて、撮影の機会を狙っていました。積丹半島にかかる雲が晴れそうな日、いよいよ神威岬に向けて出発です。

神威岬の手前でカモメと出会う

神威岬の開門時間は午前8時。その時間に合わせて神威岬に向かっていましたが、目的地まであと20分ほどという場所で気になる光景を見つけました。様々な形をした岩礁が海中のあちらこちらから顔を出し、その上にはカモメなどの海鳥がとまっていました。その岩に打ち付ける波とじっと留まる海鳥。この光景を眺めるうち、作品として撮ってみたいという思いが湧き上がり、寄り道をして撮影をすることにしました。三脚を立て、撮影開始です。

SONY a7R3, f/8, 1/160秒, ISO100, 400mm, フィルターなし

ブルーに染まる海から突き出した三角形の岩には、黄色い足と黒い点のあるくちばしが特徴のウミネコと思われるカモメがとまっています。カモメがじっとしている間シャッターを開けて、岩に打ち寄せる波の形を長秒で写し撮れたら面白そうです。私は長秒での撮影に挑戦しようと、ND64のフィルターをセットしました。時刻は午前8時ごろ。明るい時間だったので、シャッタースピードを調整するためさらに一段絞ります。勢いのある波が押し寄せる瞬間と、カモメがじっとするタイミング。この二つを狙ってシャッターを切り続けました。

SONY a7R3, f/9, 0.5秒, ISO100, 400mm, NiSi ND64

カモメに動かないでと念じた8秒間

この時、シャッターを開けている時間は0.5秒。このくらいのシャッタースピードであればほとんどの場合、一匹のカモメが動きを止める瞬間に撮影することができました。波の形はどうでしょうか。このとき、波は5分に一度くらいの割合で大きく打ち寄せました。岩に打ち当たった波を狙うも、そのあと波が引いていく瞬間を捉えてしまうことが多かったのですが、その失敗と思われる写真から私は自分の捉えたい波の形に気づきました。引いていく波が岩を撫でる様子が、波のベールを纏っている様にも見えないでしょうか。私は薄いブルーの波が岩を覆うさまが素敵だと感じました。

しかし、このシャッタースピードでは波の表面の模様や波が岩に打ちあたる瞬間のほうが強調されています。それよりも私は、押し寄せ引いていく波がベールのように岩を覆ってゆく軌跡をより繊細に写し撮りたいと思い、シャッタースピードが長くなるよう絞りを調整しながら撮影を続けました。

SONY a7R3, f/16, 1秒, ISO100, 400mm, NiSi ND64

シャッタースピードが1秒になるまで絞ると、水の流れが繊細な糸のように見え、柔らかい水とゴツゴツとした岩との対比を表現できるようになりました。さらに波には動きが見える反面、カモメたちはピタッととまっています。その様子は普段動き回る動物を「静」、打ち上がる波を「動」として捉えられているようで、これもまた面白い表現だと感じました。ここまでND64のフィルターを使用してきましたが、シャッタースピードを1秒にするのにF16まで絞っていたので、このままND64を使用してこれ以上長いシャッタースピードで撮るには限界がありました。人間とは欲深い生き物です。私はさらに長い露光時間で撮りたいと思い、フィルターを交換することにしました。

ND1000をセッティングし、今度はまた先ほどの三角岩のカモメを狙います。シャッタスピードはさらに長く、3.2秒。しかし、これがなかなか大変でした。カモメは意外にじっとはしていないのです。前を向いていたと思ったら後ろを振り返ってキョロキョロ、今度は胸や背中の羽に顔を埋めて羽繕い。ですが、時々じっとするタイミングがあるようでした。私はカモメに向かって「少しの間、じっとしていてね」と念じながら、岩に波が打ち当たる瞬間を狙い続けました。5分に一度の波が押し寄せるチャンスタイムの間はどんな波が写ったかを確認したい気持ちを抑え、シャッター切り続けます。しばらくして波が収まると、私はその隙に撮れた写真をドキドキしながら覗きます。

SONY a7R3, f/7.1, 3.2秒, ISO100, 400mm, NiSi ND1000

波が岩に打ち当たった瞬間を切り取った1枚が撮れていました。右側の岩には見事にしぶきが上がっています。3.2秒というシャッタースピードのおかげで、より長い時間の水の動きが1枚の写真に収められ、今度は波のしぶきが白いベールように写りました。もう少し、あともう少しシャッタースピードを長くしたら、さらに幻想的な1枚に近づくかもしれない。私はそう思い少しずつ絞りながらシャッターを切っていきました。気がつくと、シャッタースピードの設定は8秒でした。

SONY a7R3, f/9, 8秒, ISO100, 400mm, NiSi ND1000

8秒という、人間でも止まっているのに一苦労しそうな時間、奇跡的にカモメはピタッと止まってくれていました。カモメを囲む青い海の表面はより滑らかに映し出されています。波の動きは抽象化され、白い霧のような波のベールが岩を優しく包み込みました。まるでそれは青い空に浮かぶ天空の島のようだと私は感じました。シャッタースピードを変えながら何枚もシャッターを切ってきましたが、この1枚が私の作品になりました。

見慣れた光景の中にも面白い被写体は転がっている。今回はそんな思いで被写体を探し、撮影に臨みました。普段見過ごしてしまうような瞬間でも撮り方次第で作品にできる、そんな撮り方を見つけられたら、もっと写真が面白くなるのではと感じています。
ついつい夢中になって撮影してしまったので、この撮影のあと開門時間の8時から1時間ほど遅刻して神威岬の撮影を開始しましたが、そこでもフレームの中を飛び交うカモメが気になって、カモメが飛び込んでくる瞬間を狙って撮影してしまうのでした。

撮影のあとは現地の美味しいご飯も忘れずに!今回はお昼ご飯に小樽の番屋食堂に向かいました。私が手にしているのはニシンの丸焼き!こんなに大きいのに身はふわっふわでこんなに美味しい焼き魚は初めて!と思うほどでした。積丹、小樽方面はやっぱり海の幸がおすすめです。

もうすぐ北海道は紅葉の季節を迎えます。移住したのが真冬なので、秋から冬になっていくさまは今年初めて目にします。ダウンが手放せない時期になるまであと少し。変わりゆく季節を楽しみたいと思います。

シミズエリでした。
また次回お会いしましょう!

NiSi NDフィルター

風景写真家のために特別に設計された、Nano IR コーティングを施した高品質な光学ガラス製のフィルターは、キズや汚れ・色かぶりのない優れた描写をもたらします。
NDフィルターを使用し絞り込んだ状態で撮影する際、赤外線の影響による色かぶりが問題となることがあります。NiSiのフィルターは、IRコーティングにより赤外線をカットし色かぶりを解消、自然な色合いを再現します。

清水 愛里 eillie shimizu

1989年千葉県生まれ。前職で企画・運営を担当した写真展(写真家 井上浩輝さんや半田菜摘さん、日経ナショナルジオグラフィック)の仕事をきっかけに写真と出会う。その中で自身でも写真を撮りたいという強い思いが湧き上がり、カメラを手にする。北海道を訪れた際、その大自然の素晴らしさに圧倒され、それからは毎月のように北海道に通い、写真撮影をするようになった。2019年2月、写真の町・東川町に移住、念願の北海道民となる。企業広告写真の撮影をしながら、北国の地で美しい風景の中の動物や自然風景を被写体に作品作りをしている。

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