写真家 眞鍋久徳さんに訊く

もともと自然の中に身を置くことが好きだった眞鍋久徳さん。愛娘の成長を記録するために買った一眼レフカメラのレンズは、自ずと自然風景へと向けられていきます。撮影スポットに頻繁に出かけるようになると、そこで出会った写真仲間に刺激され、風景写真のさらなる深みにはまっていきました。何事にも研究熱心な眞鍋さんは、ネットや口コミ情報をベースに、撮影テクニックや表現方法を一気に吸収し、気がつけばメジャーコンテストへの入賞を、狙って獲れるほどの実力になっていました。自然の持つ威厳を捉えつつも、その中に自然ならではの優しさを感じる眞鍋作品は、どのようにして作られるのか? 眞鍋久徳さんに訊きました。

Awesome sight / SONY ILCE-7RM3, 1/15 sec, f/11, 150 mm / CPL

ゴルフに代わる趣味が見つかった

____ 写真をはじめられたきっかけを教えて下さい。

8年ほど前、まだ娘が2~3歳だったときに、娘の保育園のイベントを撮るために、エントリークラスの一眼レフを買いました。よくあるWズームキットってやつです。それから5年間くらいは、オートって書いてあるモードで、ただシャッターを押すだけで撮っていたのですが、あるとき、庭に咲いている花を、望遠ズームの望遠端にして絞り開放で撮ってみたら、前ボケや後ろボケが現れ、思った以上にキレイに撮れました。工夫すればこんな写真も撮れるんだって分かったら写真が面白くなって、風景も撮りたくなりました。このあたりが、写真を始めるようになったきっかけですかね。私は写真を始める前、ゴルフをやっていたのですが、首のヘルニアになってしまい、ゴルフを続けられなくなりました。ゴルフに代わる趣味を見つけなくては、と思っていたときに、ちょうど写真が面白くなってきて、写真にのめり込むようになりました。

____ 本格的に写真に取り組み出すようになったターニングポイントはありますか?

写真が面白くなってきて、SNSに写真をアップし始めたのですが、まずは公開せずにいて、自分で見て少し上手くなってきたと思ったあたりから、会社の友達にまで公開範囲を広げました。そしたら、友達から「上手いじゃないか」って言われて嬉しくなって、徐々に公開範囲を広げていきました。最初は庭の花や近所の風景をひとりで撮っていましたが、撮影スポットに出かけるようになると、そこには写真の上手な人が居て、その人達と交流するうちに、私がいかに写真のことを知らないか分かりました。なにしろ、その頃は「RAWデータを現像する」ということもよく知らず「デジタルなのに現像って何?」なんて思ってましたから。(笑)
せっかくゴルフに代わる趣味として写真を始めたのに、これじゃいけないと思い、本やネットを使って独学で写真を勉強しました。情報を集めたのは、そのくらいの範囲で「あとは経験値で稼ごう」ってね。私は人に色々と聞くのが苦手なので、自分で調べてしまうんです。でも、そんな写真仲間との交流が、本格的に写真を撮るようになったターニングポイントだと思います。
東京カメラ部などの存在も、そんな写真仲間との交流から知り、投稿を始めたのですが、まだその頃は投稿数も少なかったので、私の写真でもフィーチャーしていただけたのかもしれませんね。今は厳しいかなぁ?

Spring coming away / SONY ILCE-7RM3, 30 sec, f/10, 171 mm

この写真「雲龍」は、同じシーンの別アングルの写真が、東京カメラ部10選に選ばれました。10選の写真は龍の後ろから縦位置で撮影したもので、これは別バージョンの横位置の写真ですね。どちらを掲載していただこうか悩んだのですが、10選とは違うものがいいかな、と思いまして、こちらを選びました。実は私は縦位置写真がすごく好きなんです。手前から奥行きがズドンと出てくるでしょ。風景というと横位置、いわゆるランドスケープ構図が多いのですが、人と違った構図で撮りたいという気持ちもあるので、縦位置写真が好みなのかもしれません。ちなみにこの横位置写真は、焦点距171mmで30秒の露光、F値は10。フィルターは使っていません。場所は京都のとあるお寺さんで、秋は紅葉バージョンも撮れるんですよ。この日は春の夕方6時半頃に撮影しましたが、龍だけに僅かに日が射す条件になかなか出会えなくて、何日も通いました。

縦位置構図で手前から遠景までの奥行き感を引き出す

桜色の朝 / SONY ILCE-7RM3, 1/4 sec, f/14, 18 mm / GND8 soft

私の好きな縦位置構図は、例えばこんな写真ですかね。これは奈良県の神童寺の桜で、この場所の朝焼けが絶対に撮りたくて、夜明け前から川に入って撮影しました。この川は流れが速くて、広角レンズで前景に迫って撮ると結構しぶきが飛んでくるんですよ。GNDフィルターを使ったのですが、フィルターの表面に水滴が着く度にブロアーで吹き飛ばしていました。それでも、流れが速いために1/4秒の露光でも、これだけの水の流れ感が出てきました。狙っていた朝焼けも出て、空がきれいな桜色に染まった良い朝でした。

A ray of light / SONY ILCE-7RM3, 30 sec, f/7.1, 25 mm / ND1000

この写真も私の好きな縦位置構図の写真です。滋賀県甲賀市信楽にある鶏鳴の滝で、地元ではよく知られた名瀑です。自宅から車で1時間程度の場所にあるので、風景写真を始めた頃から通っていますが、この写真は今年の夏に撮ったものです。撮影にはNiSiのND1000フィルターを使っていますが、滝の撮影に使うNDフィルターならND6とかND8でも十分なんですよ。でも私、そういうの今も持っていないので。(笑)
それで、滝を撮るなら、水の落ちるところに斜光線を入れたいと思い、山間の滝に日差しの入る時間帯に撮影しましたが、ND1000を使ったので、昼の11時頃にも関わらず、シャッタースピードは30秒になりました。

_____ NISiのフィルターを使い始めたのは、いつからですか?

きっかけは、写真仲間と一緒に棚田の撮影をしていたときです。私は、画面に白飛びや黒つぶれが出ないようにするために、ブラケット(複数枚の段階露光)撮影をして、それを合成する方法を使っていて、そのときもブラケット撮影で撮りました。しかし、同じシーンをGNDフィルターを使い、1枚撮りで撮影したいた仲間の写真を見せてもらうと、そちらの方がきれいだったのですね。それに較べると、私がブラケット撮影で合成した写真は、光と影がハッキリしないというか、平面的で陰陽が無いように感じました。そんな体験から、NiSiのフィルターをGNDから使い始めました。2年ほど前のことだったと思います。

MEMORIES / NIKON D810, 59 sec, f/8, 50 mm / ND1000
[ JALフォトコンテスト入賞作品 ]

この写真もNiSiのフィルターを使った写真です。場所は福岡県糸島市の二見ケ浦にある夫婦岩、ド定番の撮影スポットです。実は佐賀インターナショナルバルーンフェスタという熱気球のイベントを撮りに行っていたのですが、せっかく九州に来たのだからと、旅の記念に立ち寄った場所です。フィルターはND1000を使い、露出は60秒。海は波がザップンザップンと音を立てるほど荒れていたのですが、長時間露光をすることで、こんなに幻想的な海になりました。夕焼けが優しい感じに色づいてくれたので、空もいい感じです。この作品は2016年のJALのコンテストで準優秀賞をいただいています。

余談ですが、私は沖縄、北海道以外への撮影の足には車を使っています。理由は撮影機材を選ばずに全部持っていけるからなのですが、この撮影で九州に行ったときも自宅から10時間ほどかかりました。写真を始めると距離の感覚と、カメラの値段の感覚が麻痺してしまいますね。すでに愛車は2年で10万キロを超えたというのに、我ながら困ったものです。

“写欲” を復活させてくれた絶景との出会い

Awesome sight / SONY ILCE-7RM3, 1/15 sec, f/11, 150 mm / CPL

_____ 最近はどんな写真を撮っていますか?

実は、ずっと憧れていた東京カメラ部10選に選出され、その後しばらく写欲がなかったのですが、やはりカメラマンの写欲を復活させる特効薬は絶景ですね。

この写真(上)は今年撮影したもので、撮影地は滋賀県高島市の平池で、自生するカキツバタの群落は、水面が鏡にように花を映すことで知らています。毎年撮影に行くのですが、今年の咲き具合はすごく良くて、しかも良い具合に霧が出たタイミングで撮ることができました。CPLフィルターを使って水面の花の映り込みを見せました。

また、こちらの写真(下)では、Nationai Geographic Nature Photographer of the year 2018 Editor’s Favoriteに選ばれました。このときは、明け方まで降り続いた雨がやみ、一気に雲が消え、放射冷却となった気温差と高湿度から素晴らしい朝霧が発生しました。太陽の角度がつくと、斜光が入りとても幻想的な光景を見る事ができました。何回も通っていますが、最初に訪れたこの写真以上のロケーションはいまだに見れていません。この写真でもCPLフィルターを使用しています。

a moment / NIKON D810, 1/320 sec, f/8, 48 mm / CPL

動物の写真も撮る、写真で社会貢献をする

_____ 今後の目標などあれば教えて下さい。

今年の5月あたりから、風景写真だけでなく動物の写真も撮るようになり、その比率は半々くらいになっています。動物の写真を撮るときはISO感度1600とか6400とかの高感度を使ったり、一瞬の表情や仕草を狙うために連写したりと、風景写真とは違う撮り方をするので、興味は尽きません。

私は自然の中に身を置くことが好きで、その心地よい風景をきれいな写真として世に出すことは、地域の発展や活性化にもなりますし、私が得た写真の知識や経験を若いカメラマンに伝えることも、昨今よく言われるカメラマンのマナー問題などにも通じると考えています。また、写真を通じて社会貢献、特に地元に貢献できればとも考えています。これは正に私が先輩カメラマンから教わった事です。今の私には未だその方法すら見出せていませんが、将来そういう活動もしてみたいと考えています。

眞鍋久徳 Hisanori Manabe

本職は金属研究者。関西中心に主に風景写真を撮影している。見た事のいない写真、見てみたいと思ってもらえる写真を目指し活動している。国内フォトコンテスト多数受賞。東京カメラ部102017

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