ArtFuji Photographer TAKASHIさんに訊く

風景写真家であれば、誰もが目標のひとつとするYour Shot(米・ナショナルジオグラフィック)のDaily Dozenや500pxのEditor’sChoice。こうした世界レベルの海外写真SNSで、軒並み最高評価を獲得している、日本を代表する富士山フォトグラファーTAKASHIさん。モノクロームのアーティスティックな作品から、これぞ日本の富士山と思える季節感にあふれる作品まで、富士山をテーマに様々な作品を精力的に発表しています。その創作のプロセスは極めてロジカルで、作品は、人の目には見えない富士山の「現実」を見せてくれます。

Shining summit:輝く山頂 / ND1000+ND8, SS119, F/11, ISO 100, 15MM, TAMRON SP 15-30MM F2.8, NIKON D610
2017 NiSi杯美しい日本·富士山フォトコンテスト 入選

WORKS 01

Shining summit:輝く山頂

— こちらは、PASHADELIC NiSi杯の受賞作、2点のうちの1枚ですね、CP+(カメラ諸周辺機器の展示会)では、会場にも飾らせていただきました。

この作品は、冬の真っ盛り、山中湖で、朝陽が山頂を照らす時間帯に撮りました。この時は雲があちこちに出ていて、湖面も風で揺れていました。

人間の目というのは、1-2分の流れを積算してイメージするのが難しくて、撮ってみないとわからないこともありますが、このときは、NDフィルターで長秒露光すれば面白い写真が撮れそうだと思いました。結果として、湖の手前が鏡のように平滑になり、陸との境界は波立ちが白い線となって表現されました。その線の、真中あたりが少し明るくなっているのは、富士山の雪が写っているんです。

— 白い線が定規で引いたようにまっすぐですね。

さらに、広角で撮っているので、収差の関係もあって、雲が放射状に見えて広がりも加わりました。この広角レンズに対応するのはNiSiのフィルターしかありませんから、NiSiフィルターのおかげで撮れた作品です(笑)。

モノクロにしたのは、カラーだといまひとつ印象が薄かったからです。雪の部分のコントラストが弱かったし、湖面が地面の茶や空の青を写していると、視線があちこちへ泳いでしまう。モノクロにすることで、雪の白がくっきりし、雲の流れ、富士山の雪、そして横に流れる線だけになりました。

手前左に見えてる陸のキワは、氷が覆っている地面です。この部分がなかったら、非常に抽象的な写真になっていて、それはそれで面白かったかもしれない。でも、これがあることによって、夢の世界が向こう側にあって、手前で現実を感じさせてくれる、そういう対比が面白いとも言える作品です。

Evening in Autumn:秋の夕暮れND1000, SS30, F/20, ISO100, 48MM, NIKON 24-120MM F/4.0, NIKON D610

WORKS 02

Evening in Autumn:秋の夕暮れ

— こちらは、1枚目のモノクロの作品と比べると、日本的で自然な富士山を捉えた作品ですね。

この作品でも、NDフィルターによる長秒露光など、いくつか技術的なポイントがあります。
まず、少し湖面が穏やかになっていますよね。これはNDフィルターで長秒露光しているからです。もう少し長い時間やればもっと穏やかになりますけど、紅葉が動いてしまうのである程度の時間に抑えています。

次に、被写界深度合成です。1枚は富士山にピントを合わせて撮り、もう1枚は紅葉にピントを合わせて、その2枚を合成するという手法です。だから紅葉も、富士山もどちらもくっきりと写っています。

さらに、紅葉も夕陽を受けているんですが、このときは補助でフラッシュを焚いています。長秒露光の場合、紅葉がわずかに揺れていてもぼけてしまう。そこで一瞬フラッシュを当てると、くっきりと映るんです。

— とても自然に見えて、様々なテクニックが使われているんですね。しかしこうした日本の四季と富士山を捉えた作品と、アート的に抽象化された作品は、TAKASHIさんの中でどう区別されているんでしょうか?

例えば、この場所で、以前見たあんな写真が撮りたい、という思いは僕にはないんです。常に、ここでこうすれば面白い作品になるだろう、ということをやっているだけなんです。いつもカメラは2台用意して、1台はフィルターなど使わずに普通に撮っています。このときもそうでした。でも、それではつまらない。だから、NDフィルターとフラッシュを使ったり、いろいろと工夫をしてしまうんですよ。

HISTORY 01

富士山に魅せられた、ある日の出来事

— TAKASHIさんの写真家としてのキャリアについて教えてください。まず、写真を撮りはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

本格的に作品を撮りはじめたのは2011年です。バイクが好きで、よくツーリングに出かけていました。バイクの写真が撮りたくて、パナソニックのミラーレスカメラを手に入れました。バイクに積むのでコンパクトな方がいいですからね。
ある時富士山の周りをツーリングしていたとき、「ああ、富士山ていいな」と思って富士山を本格的に撮ろうと思ったんです。

そこではじめて、撮影のために車で山中湖へ行きました。朝陽を待って湖畔で仮眠をして、目が覚めたら、真っ白な霧に囲まれていました。高いところへ行けば見通しがいいだろうとおもって、少し小高いパノラマ台に行ったんです。
そうすると、どーんと雲海が広がっていた。

日の出の時間になり、富士山に日が当たると、雪が積もっているので山頂が赤くなるんです。夏ほどの赤富士にはならないけれど、ピンクに輝く富士山、そして雲海。その絶景に出会ってしまった。

その後、湖畔に降りたら霧が晴れてきて、朝陽が差し、山頂だけが輝いていた。そこに眼の前の湖面をすーっと白鳥が横切った。その時撮ったのがこの写真なんです(と1枚のプリントを見せてくれましたが、こちらは残念ながら未公開写真です)
それから富士山にハマってしまったんです。

— 白鳥による啓示のようですね・・・

Birth of lenticular clouds:笠雲誕生ND64+ND1000, SS121, F/11, ISO100, NIKON 70-200MM F/2.8, NIKON D800, 2017年11月2日

WORKS 03

Birth of lenticular clouds:笠雲誕生

— 岩肌がゴツゴツとした、普段とは違う富士山の表情ですね。

Sony World Photography Awards 2018のインターナショナル部門でCommended 、日本部門賞で3位を受賞した「赤富士上の月」という作品があるんですが、それと同じ日に撮った作品です。

このときは、パール富士といって、山頂から満月がのぼってくる写真を撮りに行ったんです。夕方、富士山を見ている私の背後に日が沈んでゆき、月が富士山の山頂に昇ってくる(富士山頂からの月の出の)シチュエーションです。そこでは私も含め、たくさんのフォトグラファーが月を待っていました。しかし、月の出の直前になって富士山頂に雲が出てきてしまい、パール富士は雲が出てはダメなので、みんながっかりしていました。

でも、私はどんな状況でも作品を撮りたいので、フィルターを使ってこの雲を活かそうと。雲がもわもわと絶えず変化していたので、NDフィルターで長秒露光することで、雲を絹のようにきれいな形で収めることができたんです。

— じゃまな雲をむしろ作品化してしまったと・・・

視点を変えることで、本来狙っていたパール富士でなくても、その時のシチュエーションで作品はつくれるんです。そういうときに活躍してくれるのがNDフィルターで、このときはその典型例ですね。

その後、月が出る直前になると、さらに雲が大きくなって、今日は誰もがダメだと思って諦めたとき、私はひとりで左方向(北方向)に3キロほど移動しました。なぜなら、雲の上空に出てくる月を撮ろうと思ったからです。はじめにいた場所では、月が富士山頂にかかった雲のさらに上空に出る頃には、富士山の右上に出る計算になる(月も太陽も星も斜め右上に移動しながら昇ってくるから)。雲の上空に出た月が、ちょうど富士山の真上に来る位置を目指して左方向(北方向)に移動したんです。目指すスポットに到着するやいなや、沈む直前の夕日を浴びて山頂は赤く色づき、雲はオレンジ色に輝き、そして狙い通り雲の真上に月が姿を現しました。月の明るさと富士山の明るさがちょうどよく、月の模様もしっかりと写すことができました。ここでは残念ながらフィルターは使っていません。雲を流したいとは思いましたが、月も流れてしまいますから。

— 本来撮ろうと思った写真が取れない中で、2つも作品を、しかもひとつは受賞までしてしまったわけですね。

もちろん絶対撮れると思ったわけではありませんが、状況に合わせて考え方を変えることで、作品はつくれるんですよ。

Moon above Red Fuji:赤富士上の月 /  SS 1/50, F/11, ISO100, 125MM, NIKON 70-200mm F2.8, NIKON D8002018
Sony World Photography Awards : Commended of the International Award / 3rd Place of the Japan National Award [Landscape & Nature]

HISTORY 02

日本がダメなら海外で。いきなり海外SNSで高評価を得る

それから2014年までの3年間は、撮影したらプリントして、自宅の壁に飾っていただけでした。たまに国内のコンテストに応募しましたけれど、かすりもしない。それで、日本でダメなら海外で、と思ってナショナルグラフィックのYour Shotと500pxに投稿したんです。

花の都公園で撮った写真で、真っ白に雪をまとった木立と青い空に富士山の雪景色が珍しかったんでしょうか、いきなりYour Shotと500pxでたくさんの「いいね」がついて、どちらもトップランクに入りました。季節やテーマがうまくハマった幸運な出来事だったと思うんですが、評判がいいと、投稿を続けたくなりますよね。

それまでは、Your Shotも500pxも見ていただけだったけれど、自分も登録してメンバーになると、「いいね」したりされたりしますよね。そうすると、自分も「いいね」を返したくなるので、時間がない中でたくさんの写真を見て、直感的に写真の善し悪しが判断できるようになった。しかも自分が評価した写真が、Daily Dozen(Your Shotのエディターが選んだ今日のおすすめ12枚)に入るようになって、評価基準がだんだんわかってきた。今から思えば、そういうことで写真を見る目が磨かれたのかもしれないですね。

— それからも投稿を続けたんですね?

しばらくはその2つのサイトに投稿していました。
幸運なことに、500pxでは99.8点を獲得し、(500px独自のアルゴリズムによる、ビュー数やいいね数による人気評価=Pulse)当時の最高得点をマークしました。Your Shotでもデイリーダズンで4月、5月、6月と3ヶ月連続で選ばれ、そのうち2枚がBest of Monthに選ばれました。そして、Your Shotで私の富士山の特集まで組まれました。

— 海外のサイトでこれほど評価された理由は何でしょうか?

たくさんの写真を見ることで、どういう写真が評価されるのかがわかってきたからだと思います。私の写真は、日本的な詫び・寂びの世界ではないですよね。海外の写真のトレンドに、知らないうちに影響されていたのだと思います。

Cloud veil:雲のヴェールND1000+ND8, SS182, F/13, ISO100, 120MM, NIKON 24-120MM F/4.0, NIKON D800
PX3 2017 Silver winner / Nature Fine Erth (5 photos)

WORKS 04

Cloud veil:雲のヴェール

私の中で、モノクロシリーズとブルーインクシリーズというのがあります。昔、ブルーのインクがありましたよね、あの雰囲気を出したくて、つくったシリーズです。

— ブルーインクって、万年筆などに使われている、ボトルに入ったインクですか?

そうです、あのブルーのインクで文字を書いたり絵を描いたりされていました。あのインクの雰囲気っていい感じだなあというので、それをイメージして作りました。

— それは、モノクロの黒をブルーにしたような処理ですか?

処理方法は極秘なんです(笑)。なぜブルーかというと、モノクロよりも、このブルーにしたほうが、コントラストがよりクリアになるからです。この写真では雲の表情がくっきり出ていますよね。これはモノクロではなかなかでないんですよ。ブルーインクにはそういう特徴があります。

撮影したのは冬の河口湖、お昼前の11時頃です。ブルーに対してオレンジのフィルターをかけると、ブルーの光が吸収されて暗く見えるから、空が暗くなり、コントラストがはっきりする。そういう理屈なんですが、それをデジタルの現像処理でやっているんです。昔のフィルムのときには、オレンジのフィルターを付けて撮影すると、青空がオレンジによって吸収されて、暗くなった。それと同じことですね。

このときは雪が少なくて、富士山の表情がつまらないでしょう? 冬の真っ白な雪肌じゃないので、あまりきれいじゃない。そこにちいさな雲が、富士山の周りを消えては現れ、現れては消えて、右から左に移動しながら、流れていてたんです。これを普通に撮ると、まるい雲がぽこぽこあって、富士山の山頂も霞んでいるようにしか撮れない。実際には、雲がかぶったり消えたり、そういう変化をしているのに。それを長秒露光にする事によって、雲の動きが流れとして表現され、山頂に霞がかかって見える。

よく、写真は現実を写すから、人間の目で見える現実じゃないものは写真じゃないと考える方もいると思います。私はちょっと違う見方をしています。夜景を撮ったら必然的に長秒露光になるし、スポーツ写真で流し撮りすれば背景が流れる。そもそも写真と人間の目は全く違うものなので、カメラは人間の目で見た現実だけを写しているわけではないんです。
夜はカメラの特性上、どうしても長時間露光になるけれど、昼はNDフィルターを使うことで、同じように長時間露光で撮ることができる。それだけの違いなんです。だから、これもカメラでとらえた立派な現実で、写真なんですよ。

—その結果として、理屈を超えて、富士山の神秘性が強調される作品になっています。

普通に人間の目で見ていても、この写真のようには見えてこない。NDフィルターで時間をギュッと縮めた結果ですね。

Universe with Orion:オリオンのある宇宙NATURAL NIGHT FILTER、SS30, F/2.8, ISO1100, 15MM, TAMRON SP 15-30MM F2.8, NIKON D610
2018 the SOCIAL「SOCIAL today」日テレ報道局制作 放映作品

WORKS 05

Universe with Orion:オリオンのある宇宙

— こちらはNDフィルターではなくNiSiのナチュラルナイトフィルターを使用していただいた作品です。

真冬の山中湖で撮影しました。夏は湖面も波立っていることが多いのですが、冬は静かで鏡像が映ることが多いんです。ただしここまできれいに映る状況は、なかなかありませんね。

ナチュラルナイトフィルターで街の光を弱めて、シャッタースピードは高感度で30秒、星は動いていないけど、雲は流れているように見えるので動いているはず。よく合成ですかと訊かれるんですが、そうではないんですよ。

ナチュラルナイトフィルターというのは、夜景を撮影するときに、有害な赤い光をカットしてくれるんです。デジタル現像技術を駆使すれば、それに近い絵はつくれるんですけど、フィルターを使えばその場で仕上がりがイメージしやすいというのが僕にとっての最大のメリットですね。

— 現像の手間も省けますし。

そうですね、現像をそこまでやらない人にとっては、このフィルターはすごく有効だと思います。

この写真は、モノクロでもブルーインク(青ベースのモノトーン仕上げ・Takashiさん独自のシリーズ)でもやってみました。しかしカラーの方がこの写真には良かった。やっぱり星=宇宙に富士山が浮かんでいる感じを出したくて、湖面を少し明るくしています。意識的に上下左右対称にして、雲がほとばしるようにしました。

ナチュラルナイトフィターだけでこの作品ができているわけではありませんが、その場でブルーのきれいな色になることがわかったので、仕上がりのイメージが湧いて、さらに撮影が進められたんです。真冬の山中湖の夜中でー10℃程度は当たり前。撮った写真が綺麗じゃないと、雲の表情や星の位置が刻々と変わる状況でより良い一枚を得るために何枚も撮り続けるというモチベーションを維持するのは難しいです。

ちなみに、色温度を変えて撮ってもその場でブルー系になりますが、ナチュラルナイトフィルターで有害光をカットした場合とは異なるんです。

HISTORY 03

様々なSNSのへの投稿とコンテスト入賞

2014年には、ナショナルジオグラフィックが私の特集を組んでくれました。ある日メールが来て、特集が組みたいと。そこで結構長めの寄稿文を送ったら、数十枚も紹介してくれる大きな特集になっていました。

そんな事もあって、他のSNSもはじめてみようと思い、1xやPASHADELIC、ヨーロッパやロシアのサイトなどへも投稿しました。1xは、最初は全然ダメだったんですが、ある作品についてキュレーターからメールをもらって、そこからテイストがつかめて、ヒット率も上がってきました。

— SNSごとにテイストは違うものなのですか?

みんな違いますね。Your Shotは、ドラマやストーリー性が重要です。500pxは、美しい、売れ筋の写真が評価されます。ここは世界最大のサイトだし、世界でもトップレベルの写真が投稿されます。そこへ食い込んでいくことで、自分の写真のテイストができてきた面はあると思います。

1xはアート性が評価されるので、自分の作品をどうアートとして見せるかと考えて、モノクロ撮影とか、長時間露光やNDフィルターを使いはじめました。

— 日本のSNSにも投稿されたのですね?

PASHADELICで富士山のフォトコンテストがあって、その中で私の作品が、準グランプリと入選に選ばれました。それがはじめてのコンテストでの受賞になりました。それから本格的にコンテストにも応募しはじめた。ナショナルジオグラフィックでは、エディターズフェイバリットに選ばれたし、Greatest Landscapeという紙の写真集にも掲載されました。その後、国内外で様々なコンテストに入選できるようになってきました。
僕の富士山は、いわゆるドラマティックなもの、キレイ系、アート系、モノクロ系と様々なスタイルがあるので、それに合わせてコンテストも出し分けています。

— 写真家の方は、自分のスタイルを追求する方が多いと思うのですが、Takashiさんはとても多彩なスタイルの写真を撮られていますね。

そうですね、ですから私もいつかは狭めていかなくてはと思っています。ただ、今のところは、富士山をテーマにどんな写真が撮れるのか、めいっぱい広げている状況ですね。

Boats at dawn :黎明のボート (blue ink version) ND1000, SS247, F/4.0, ISO100, 15MM, TAMRON SP 15-30MM F2.8, NIKON D610,
2017 35Awards by 35PHOTO (100Best Photos of the Year 2017) : 5th in Landscape Night
2017 35Awards by 35PHOTO (100Best Photograpfers of the Year 2017) : 2nd in Landscape Night

WORKS 06

Boats at dawn:黎明のボート (blue ink version)

— 入賞した35PHOTOというのはロシアのSNSですね?

そうです。ここでは1年間かけてコンテストをやるんですよ。ひとりが投稿できる写真は基本5枚までなんですが、いつでも入れ替えることができる。評価方法は実に合理的で、第1ステップではコンピュータがランダムに選んだ異なる作家の2枚を見て、良いと思う方にSNS参加者が投票してポイントを付けていく。自分の作品の成績はいつでも見ることができるので、成績が悪い写真は、どんどん自分で入れ替えられる。決められた回数投票されたら第2ステップでプロの写真家に投票される。そして第3ステップでは決められた審査員が最終選考する。その過程はすべてオープンなんです。それを1年間やってランキングを決めるんです。日本ではあまり知られていませんが、2017年は24万枚の写真、10万人のフォトグラファーが参加したそうです。

最終的に、ベスト100人のフォトグラファーとベスト100枚の写真が選ばれます。それぞれの100人、100枚の中にジャンルが分かれているのですが、この作品はランドスケープのナイトカテゴリーで、フォトグラファーとして2位。写真として5位に選ばれました。

撮影した精進湖は、冬はボートのワカサギ釣りが盛んです。この日は写真のようにボートを綺麗に陸に並べてありました。
実は朝焼けを撮りに行ったのですが、快晴だったので、写真としてはおもしろくなさそうだなと。それで、日の出前に長秒露光でやったらどうだろう思って撮ったのがこの作品です。NDフィルターで湖面が鏡面化して、ボートがくっきりと見えてきた。そして、富士山の麓の雲がちょうどよく膨らんでくれました。4分位露光しています。

— 24万枚中のベスト100というのは、ものすごい競争率ですが、どういう部分が評価されたのだと思いますか?

基本投票で決まるコンテストなので、見る人は自分の感覚でいろいろ見てくれているんだと思います。カテゴリーが夜景なので、他にはオーロラの写真などがたくさんあるわけです。そういうのはよくありますけれど、こういう写真はそうありません。

この写真にボートがなければ、シンプルできれいな写真ですが、惹かれるものがなくなってしまう。長秒露光すると、風景というのは現実性から離れていきますが、そこにボートという現実的なものを置くことで、結果的に神秘的な風景をひきたてていると思います。そんなところも評価されたのではないかと思います。

Reflection of fire sky:炎の空ND1000 + ND8, SS61, F/9.0, ISO100, 15MM, TAMRON SP 15-30MM F2.8, NIKON D800
2017年8月:山梨日日新聞掲載
2016 35AWARDS (Long exposure monthly awards)

WORKS 07

Reflection of fire sky:炎の空

— こちらは美しい夕陽ときれいな逆さ富士ですね。

撮影したのは山中湖で、夕焼けを撮りに行きました。その日は風が強くて、湖面が波立っていた。そうすると、湖面に逆さ富士がきれいに映らないんですよ。だから私はあちこち移動して、この水たまりを見つけました。写真の中に、水平線があって、その下にもう一本黒い線がありますよね。ここが土手で、手前が水たまりになっていた。水たまりは湖面と違って多少風があってもきれいに写りますから、そこで構えて待っていたんです。

— こちらもNDフィルターを使っていますね?

NDフィルターを使った理由は、まず、手前の水たまりをもっときれいに撮るため。反射を穏やかにして、その向こう側の波だった湖面も目立たなくしたい。そして散漫だった雲に流れを出すことで、少し表情を抑えたい。そうでないと視線が富士山に行かないからです。このときはフィルターの枚数をあまり持っていなく、最大で61秒だったと思います。

そのあとND64を手に入れたので、更に長秒露光ができるようになりました。NDでこういう写真を撮ろうとすると、何枚かフィルターを持っていたほうがいい。もしこのとき64を持っていたらもっと柔らかい絵になっていたかもしれませんが、このときにはベストな選択だったと思います。

Takashi (TAKASHI Nakazawa)

2011年初夏、初めての富士山撮影で雲海富士の絶景、そして霧から現れた富士山の前を朝 日で輝きながら泳ぐ白鳥に出会う。以来、写真を撮ることは富士山を撮ることになった富士山専門フォトグラファー。
2014年から海外で富士山の写真を発表し続けて世界で多くの実績を残す。 アメリカナショジオの雑誌「National Geographic Traveler」で表紙に採用され、特集も組まれた。また、ナショジオから世界中で販売される写真集「Greatest Landscapes」にも掲載されている。
ソニーワールドフォトグラフィーアワード2018、ネイチャーズベストフォトグラフィーアジア2018、35AWARDS2017をはじめ、世界中のフォトコンテストで受賞歴多数。2018年に国内活動も積極化。日テレウエブTV「NEWS24」で 個人特集が放映され、「いまいちばん美しい日本の絶景」写真集の表紙に採用される。

 National Geographic関連

2014年に写真投稿サイトYour Shotに投稿を開始して以来、多数のDAILY DOZENや PHOTO OF THE DAYに選出され、ナショジオフォトコンテストで毎年Editors’ Favorite に選ばれる。

TV
2018年2月23日(富士山の日)に日テレのウエブTV「NEWS24」で個人特集

フォトコンテスト

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