可変NDフィルターで広がる写真表現 vol.4
文・写真:長瀬 正太
可変ND4回目のテーマは、より実践的な「シャッタースピードコントロール」がテーマ。長瀬さんは「水の撮影はほんのちょっとしたシャッタースピードの変化で表情を微細に変えてくれるので、気がつくと何百枚と撮ってしまう」そうで、実際に1/10秒から数秒刻みで全く表情が違う水面をみせてくれました。そのシャッターコントロールの技と、そこでの可変NDの役割についてご紹介します。
季の調べ NIKON D800E, f/5.6, 1/10秒,ISO100 28mm / NiSi 可変ND VARIO
可変NDフィルターで広がる写真表現 INDEX
可変ND×手持ちスローシャッターがとらえた手筒花火
可変ND × 青い時間に出会う青い風景写真
可変NDד水と光のArt”:見せ方に合わせたフィルタリング法
可変NDד水の微細な表情”を捉えるためのシャッタースピードコントロール
可変ND×ND1000の併用で見えてくる“新しい写真世界”
水の表情
今回の写真は群馬県前橋市は赤城山にあります小さな湿原「覚満淵」にて撮影を行いました。前回の記事でも滝の長秒露光による水の描写について書かせていただきましたが、水というのはゆったりと揺らいでいたり、波紋を作ったり、漣だっていたりと常に変化します。今回はその変化に対して1/10秒から数十秒単位というシャッタースピードで撮影してさまざまな水の表情を捉えています。
NiSi可変NDによるシャッタースピードコントロール
今回の撮影では、カメラもレンズも構図も同一、時間帯も露出もほぼ同条件の中で可変ND VARIOについているハンドルをクイクイっと回して濃度の変化をだすだけ(20秒露光のものだけND8併用)でシャッタースピードの違いをだしています。
これはもう本当に「楽ちん」の一言。最近は早朝の撮影ではほとんどの条件で可変ND VARIOを使用しています。
ただ撮影場所や天候によっても調整具合は変わります。ですので、今回は特にどの程度のシャッタースピードによってどのような変化が表れるのかを参考写真を交えて解説していきます。
-NiSi可変ND 豆TIPS-
ちなみに可変ND VARIOについております回しやすくて濃度調節がしやすい”ハンドル”。…実は取れます。(キツくねじ込まれていると手では回らない可能性がありますのでラジオペンチなどを使って緩めて下さい。傷がつかないようにそっと) 。※ハンドルはとても小さなパーツなのでなくさないように注意しましょう。
シャッタースピード(1) 1/10秒における水の表情
NIKON D800E, f/5.6, 1/10秒,ISO100 116mm / NiSi 可変ND VARIO
まず1枚目はシャッタースピード1/10秒。可変NDフィルターは最小濃度の1.5段分の減光効果になっています。
1/10秒は私が普段の風景撮影でも「”水のゆらぎ”や”波紋”が撮りたい!」という時にセットするシャッタースピードです。シャッタースピードが速すぎればゆらぎは止まって写り、遅すぎれば描写がずれすぎて(ブレすぎて)しまい何が写っているのかが伝わりにくくなってしまいます。そこで、揺れているような水のたわみ具合が撮れるのがこのシャッタースピードです。
今回もまさに映り込みの木々がぐねぐねと歪んで描写され、映り込み世界が揺らいでいるような幽玄な雰囲気で撮ることができました。
●映り込み部分の拡大
シャッタースピード(2) 0.8秒における水の表情
NIKON D800E, f/5.6, 0.8秒,ISO100 116mm / NiSi 可変ND VARIO
次に2枚目のシャッタースピードは0.8秒。可変NDフィルターは感覚的に1~2メモリほど濃い方へ動かしています。(霧の量で露出値が変わるのでここからの調節は感覚的になります。)
0.8秒(概ね1秒)ですと、先程の1/10秒と比べても映り込みがハッキリと描写され、静かな水面ですと水鏡のように写ります。さらに、水面の朝靄にはブレが加わり少し動感がついています。この時に止まっている被写体(この写真の場合は奥1/3の実像部分)を構図に入れておくと静と動の対比が生まれて自然の生命感や奥行き感が表現できます。
●映り込み部分拡大
シャッタースピード(3) 5秒における水の表情
NIKON D800E, f/14, 5秒,ISO50 116mm / NiSi 可変ND VARIO
そして3枚目のシャッタースピードは5秒。可変NDフィルターは最高濃度付近にし、足りない分を絞りとISO感度の減感も合わせてコントロールしています。
ここまでの長秒露光になりますと水の表情は落ち着き、前述した”ゆらぎ”や”動感”というよりも、自然の営みをただ見つめているような、静謐な雰囲気を持たせることができます。
ただし、1秒を超えたシャッタースピードぐらいから 木道の揺れ や シャッターショック&ミラーショック などによるカメラブレが発生しやすくなりますので撮影時は注意が必要です。
●映り込み部分拡大
シャッタースピード(4) 20秒における水の表情
NIKON D800E, f/11, 20秒,ISO50 116mm / NiSi 可変ND VARIO + NiSi ND8
最後はシャッタースピード20秒。可変NDフィルターはすでに最高濃度ですし、絞りもF16以上に絞りたくなかったのでここでND8を追加しました。(フィルターの重ね付けは広角レンズですとケラれやすくなるので要注意です。)
5秒のシャッタースピードとの水の表情の変化はそれほどありませんが霧の動き(ブレ)が完全に落ち着き横の縞模様となりました。より木々の映り込みが増えたために自然の息遣いが聞こえるような繊細な表情になったと思います。
このように水の変化だけでなく、霧の量や動くスピードによってもシャッタースピードの長さをコントロールしてさまざまな表情を捉えています。
ただし、ここまでの長秒露光になると実像部分が揺れてしまうことも少なくありません。それもまた表現として生かすのであれば良いですが、実像部分はしっかりと止めて描写したい時はシャッターを押すタイミング(風がおさまった所を狙う)やシャッタースピードの長短の調節を行っています。
まとめ
今回のまとめになりますが…
「全く同じカメラ、全く同じレンズ、全く同じ構図で撮影する時もNiSi可変NDフィルターの濃度を変化させることでシャッタースピードに変化が生じるので、様々な水の表情を撮ることができる!」となります。
さらに…
1/10秒:水のゆらぎや波紋を撮るのに適している。
1秒程度:映り込みをハッキリと撮るのに適している。
1秒以上:映り込みを落ち着かせて撮るのに適している (霧などがあれば動感を付加することもできる)。
となります。
「“水の微細な表情”を捉えるためのシャッタースピードコントロール」は以上となります。
最後になりましたが、様々な表情を捉えた上で、最もお気に入りの一枚を見つける(沢山撮った中から最高の一枚を決める)ということも写真表現にとってとても大事なファクターです。
ということで、けっこう迷いますが今回の撮影での私の一番のお気に入りは「シャッタースピード(2) 0.8秒における水の表情」です。理由としましては…実はここでの水の表情は脇役に過ぎず、主役は右上にいる木々なのです。その木々の映り込みがしっかりと写されていて存在感がでており、さらに朝靄の動きを捉えることで静かな朝の空気の中、自然の生命力や鼓動が感じられるような一枚になったからです。
こんな風にして私はいつも、ただ普通に目で見ているだけでは見えてこない世界、カメラならではの世界が撮りたいと思いNiSiのNDフィルターを多用しています。非常に繊細で様々な変化に出会える世界なので、ぜひこの記事を読んでくださっているみなさんにも一緒に楽しんでいただければと思います。ではまた。
可変ND VARIO
1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルター
可変ND VARIOは、1.5段〜5段の減光量を無段階に調節可能な可変NDフィルターです。ND量はフィルター外周のノブによって容易に調節可能。意図した被写界深度やフレームレートを保持したままで露出を制御することで、より厳密かつクリエイティブな写真/映像表現を可能にします。
長瀬 正太 Shota Nagase
1975年生まれ 群馬県前橋市在住
デジカメ教室『Message』&写団「蒼」主宰
「日本写真協会」会員
「ヒーコ」記事執筆&セミナー講師
「デジタルカメラマガジン」「NikonD810ムック」他 記事寄稿
「尼康鏡界」(Nikon中国公式Webマガジン)記事寄稿
展示会など
2013~2016年 「CP+」 阿波和紙ブース
2014年「HKU SPACE」個展(香港)
2014年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2014年「Creative Japanese Artist in Milan 2014」(ITALY)
2014年「Ⅶ International Tashkent Photobiennale」(UZBEKISTAN)
2014年「長瀬正太 和紙写真展 ’心’」(東京新宿)(RICOH IMAGING SQUARE SHINJUKU)
2014年「Onward-Navigating the Japanese Future 2014」(Los Angeles)
2016年「Photokina World of imaging」(GERMANY)阿波和紙ブース
2017 年「静寂 -短歌と写真が織り成す美しい世界- 」 (沼田市)生方記念文庫企画展
2017 年「ぐんまの景観がこんなにも素晴らしい5つの理由」(群馬県)群馬県立自然史博物館企画展
2018年「東京カメラ部2018写真展」(渋谷ヒカリエ)日本の47枚 栃木県枠
2018年「長瀬正太 和紙写真展」(群馬)阿久津画廊個展
常設展示
- ヨガスタジオ ポスチャー様(前橋・高崎)
- 新前橋かしま眼科形成外科クリニック様
- オキュロフェイシャルクリニック東京様
(クリニック様は見学の場合は長瀬まで要連絡)