ドクター・リンの写真世界 vol.6

水の流れはダイナミックな情景から、静かで調和のとれた幻想の世界に変わる

水、特に滝、川、海は最も一般的で、人気がある長時間露光撮影の題材だ。水は、露光時間の変化に伴い表情が変わる。高速シャッターだと、激しい流れと飛沫を写すことができ、躍動感が出る。逆に、スローシャッターでは流れが美しく滑らかになり、シルクのような質感が出て、幻想的になる。例えば太陽が昇る前や沈んだ後などの光不足の状況を除いて、流水を撮影するのに長い露光時間は必要ない。一般に、フィルターを使用し、2~6段のフィルターで0.5秒から10秒の露光にすれば、糸状の水流が表現出来る。もし更に15秒から30秒まで延長すると、水の流れを霧のようにすることが出来る。また、PLフィルターは水面や周囲の湿っぽい石の光を取り除く事が出来るほか、段の低いNDフィルターとして使用することもでき、一挙両得である。NiSiのPLフィルターには約1段の減光効果がある。以下にある数点の写真では、様々な絞り値、ISO感度、ND濃度を用いて、露光時間の長さが水流に及ぼす効果を示した。

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図1: SS:1/10秒

図2: SS:1/6秒

図3: SS:1/2秒

図4: SS:1秒

図5: SS:2秒

図6: SS:5秒

図1・図2は1 / 10秒と1 / 6秒の露光時間で、水流の動きを止めるほど短くはなく、流れの軌跡を描き始めるぐらいの長さだ。流れの軌跡や細部が見え過ぎるので、少し無秩序に感じる。シャッタースピードが1 / 2~2秒(図3 – 5)に延長されると、流れは美しく柔らかい糸状になる。この範囲内の露光時間は、多くの風景写真家が好むもので、水の流れを十分に表現する事ができる。また、図1と図2に比べても秩序が生まれ、水流の方向感が出ている。この動感と方向感は、画面にも強いインパクトを与えている。露光時間が5~10秒(図6、7)に延長されると、水流は霧の状態になり、糸のように見える流線も徐々に抽象化されていく。露光時間が15~30秒まで延長される(図8、9)と、水の流れは完全に霧のようになり、糸状だった線は見えなくなる。このとき、水の流れは、元のダイナミックな情景から、静かで調和のとれた幻想の世界に変わる。何か特別な理由がない場合(光不足など)を除いて、露光時間をこれ以上長くする必要はないだろう。

作例のパラメータは参考であり、露光時間の他、流れの速度も関係がある。上記の効果を狙うには、水量が少なければ、それに伴いシャッタースピードを遅くし、雨上がりもしくは水量の大きな流れの場合は、逆に速くなる。撮影中に何回も露光時間を変えて実験したり、ブラケット撮影をしたりすることで、狙った効果を得られるまで撮影してみるのが良い。

図7: Canon 5D Ⅲ, Canon 24-70mm @45mm, f/18, ISO:100, SS:10秒, V5ホルダー, ND8

図8: Canon 5D Ⅲ, Canon 24-70mm @45mm, f/22, ISO:100, SS:15秒, V5ホルダー, ND8

図9: Canon 5D Ⅲ, Canon 24-70mm @45mm, f/10, ISO:200, SS:30秒, V5ホルダー, ND64